(英エコノミスト誌 2022年2月5日号)
だが、低金利時代が完全な終わりを迎えることはなさそうだ。
米連邦準備理事会(FRB)のジェローム・パウエル議長は以前、金利の設定を天文航法になぞらえたことがある。
インフレが高進する今、FRBは迷子になった感が強まっている。
FRBは金融政策を急激かつ大幅に引き締めることで、唐突な針路変更に乗り出そうとしているかに見える。
おかげで株式相場は急落し、多くの企業や住宅所有者は低金利時代が完全に終わるのかどうかと不安を抱いている。
現実はもっと複雑だ。
短期的には、FRBは確かに物価を制御する必要がある。だが、これから説明するように、長期的には世界の人口高齢化によって金利の上昇は抑えられるだろう。
つまり、予想されるのは1970年代への回帰ではなく、不愉快な不況だ。
低金利に慣れ切った世界
金利の上昇が恐ろしいと感じられるのは、金利がほとんどつかない時代に世界の大半が慣れてしまったからだ。
主要7カ国(G7)で見ると、ここ10年あまりの間に金利を2.5%より高くしたことがある中央銀行は一つもない。1990年にはG7のすべての中央銀行が5%よりも高く設定していた。
低金利は、裕福な国に必ずついてくる特徴のようになった。
おかげで政府は巨額の財政赤字を計上できるようになり、資産価格は天文学的な高値まで急騰し、政策立案者は低迷期に経済を下支えするために、債券買い入れや国民への一時金支給など、金利以外の手法を使わざるを得なくなった。
過去18カ月間の物価上昇が、FRBをはじめとする中央銀行にとって寝耳に水だったのはそのためだ。
米国では消費者物価指数(CPI)の上昇率が前年比で7%に到達し、「一過性」で終わるどころか賃金に波及しつつある。
いろいろなモノやサービスの値段がこれから上昇するとの見方が、家計や企業の期待に織り込まれつつあるからだ。