(英エコノミスト誌 2022年1月29日号)

1月27日、第2次世界大戦で900日に及んだレニングラード包囲戦に耐えた78周年の記念式典に参列したウラジーミル・プーチン大統領(写真:ロイター/アフロ)

ウクライナでの戦争は世界中に影響を及ぼす。特にロシアにとって代償が大きい。

 人間の紛争において、これほど多くのことが1人の人物の気まぐれにかかっていることはめったにない。

 ロシア軍部隊の国境地帯への集結が示唆するように、ウラジーミル・プーチン大統領は近々ウクライナに侵攻するのだろうか。それとも、これは隣国や西側陣営から譲歩を引き出すための「はったり」なのか。

 プーチン氏の意図が何か、はっきり確信できる人は誰もいない。ロシアの外相でさえ、推測するしかない立場に置かれているように見える。

 だが、もし戦闘が近く始まるのであれば、世界はその利害を理解しておく必要がある。

全面侵攻か小さな戦争か

 ひょっとしたらプーチン氏は全面的な侵攻を目論み、ロシア軍をウクライナ領奥深くまで進めて首都キエフを制圧し、現政権を転覆させることを計画しているのかもしれない。

 あるいは、ウクライナ東部の一部をさらに併合し、2014年に奪取したクリミア半島とロシア本土を結ぶ回廊地帯を作ろうとしているのかもしれない。

 その一方で、ロシア政府が以前から支援しているウクライナ東部ドンバス地方の分離主義者をウクライナによる虐待から「救出」し、同時にウクライナの軍隊も叩く小さな戦争を望んでいる可能性もある。

 プーチン氏が主導権を握っているため、ロシアが有利だと結論づけるのはたやすい。だが実際には、プーチン氏の眼前には危険な選択肢が並んでいる。

 大規模な戦争は尋常でないリスクを伴う。だが、そうしたリスクを制限する小規模な戦争では、ウクライナの西側への接近を止められないかもしれない。

 そして、小規模な戦争でキエフの政権を降伏させることができなければ、プーチン氏は否応なく大規模な戦争に引き込まれる恐れがある。

 ロシアが全面的な侵攻に出れば、欧州では1940年代以降で最大の戦争になる。

 民主的な選挙を経て作られた欧州の政権が外国の侵略者によって倒されるという点でも、1940年代以降で初めての事例になる。

 反乱が長期に及ぶ場合は特にロシア側が犠牲者を出すだけでなく、数え切れないほどのウクライナ国民の命を奪うことにもなる。

 ロシア国民もウクライナ国民もスラブ人であり、相手の国に親類縁者がいるケースも多い。