ウクライナ問題の外交的落としどころ
米国政府が設定する「ロシアのウクライナ攻撃日」やメディアや評論家が予言する侵攻日が幾度も書き換えられる中、外交交渉が絶え間なく続けられていることは注目されなければならない。
ドンバス和平は早くから交渉議題に上っており、外交決着の際の一条件となっていることは確実であろう。
また、直近では駐英ウクライナ大使やウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領が言及するなど、以前から囁かれていたウクライナの中立回帰も条件の一つとして浮上してきた。
本稿では、勇み足であるが、外交決着の条件として想定される
1.ミンスク合意の履行
2.ウクライナの中立回帰
の意義を考えてみたい。
1.ミンスク合意の履行
2015年2月、正規軍と志願兵からなるウクライナ軍は、ウクライナ東部ドンバスのデバリツェボ(本稿ではウクライナ語の固有名詞は、日本の読者に馴染み深いロシア語表記に統一する)において、ドンバスを2014年春から実効支配している分離勢力(「ドネツク人民共和国」、「ルガンスク人民共和国」)に大敗北を喫した。
フランス、ドイツが仲介に入り、いわゆる「ミンスク合意(ミンスク2)」が調印された。
この交渉を始終リードしたのは、分離主義勢力を公然と支援してきたロシアのウラジーミル・プーチン大統領である。
ロシア観点からみるミンスク合意の趣旨は、ウクライナの憲法を改正し、ドンバスの分離地域(ルガンスク州およびドネツク州の一部地域)に自治権を付与してウクライナ政治空間に押し返す、というものである。
これによって、ロシアはこの地域を介してウクライナ政治に影響を与えられ、財政負担もウクライナ側とすることができる。
しばしば誤解されているが、ロシア政府にドンバス地域を併合するという領土的野心はない。