ウクライナの首都キエフ

 前回このコラム(「ベラルーシの移民、ウクライナ緊張にロシアは関与したのか」https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/67812)でウクライナ問題を論じてから2カ月半前を経た。

 その間、ロシアのV.プーチン大統領がウクライナへの侵攻命令を出すのか、出すならいつなのか、の諸報道・コメントが連日のごとくメディアを賑わしている。

 この問題での筆者の見解は前回から変わらず、ロシアの当面の基本姿勢を以下と解釈している。

―ロシア側から侵攻する意図はない。

―しかし、ウクライナ側から攻められたなら、軍事力で押し返す。

―最優先事項は、ウクライナ側に手を出させず、ロシア自らも武力行使に訴えずに済ませること。

 最近でこそ、ロシアは侵攻しないのではないか、との見解も報じられ始めてはいるものの、ロシアにウクライナ侵略の意図あり、を前提にした論がまだ大勢を占めている。

 筆者がこの多数説に同意できない理由は、それらが押し並べて、ロシアの侵攻ありきで始まる「たら・れば」論であり、ではなぜ今この時点でロシアが侵攻せねばならないのかの理由付けが、依然として釈然としないものばかりだからだ。

 それらは、侵攻を成功させたならそのような効果も出るだろう、という推測ではあり得ても、その意図の説明にはなっていない。

 その説明を欠いたままに、「2008年の北京夏季五輪でロシアはジョージア紛争に突入(先に手を出したのはジョージア側)したから、今回も北京冬季五輪の時期を狙っている」、あるいは、「地面の凍結で戦車が走行しやすい1~2月の厳冬期に、ロシア軍が侵攻作戦実施に踏み切る可能性が大きい」といった話が駆け巡る。

 ロシアの侵攻の意図や理由として、何人かの論者は、今乗り出して行かねばNATO(北大西洋条約機構)のウクライナ参入を止められないとの危機感や、ウクライナ問題をロシアの意に従う形で決着して国民の支持を高め、2024年の大統領選で大勝を果たすとともに、政治遺産を築いてロシア史にその名を留めようとのプーチン個人の欲求、などを挙げている。

 しかし、NATOのウクライナ進出抑止の観点からは、ロシアのウクライナへの侵攻は逆に今のウクライナ領域にNATOを引き込むことになりかねない。