ロシアを訪れたインドのナレンドラ・モディ首相とハグするウラジーミル・プーチン大統領(7月9日、写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

芳しくない戦況に焦る米欧指導者たち

 2年半近くも続いたロシア・ウクライナ紛争は、ようやくその出口らしきが徐々にでも見え始めたかのようでもある。だが同時に、核戦争に至る危険性もこれまで以上に高まっている。

 そのいずれに向かうかの決定打が、結局は11月の米大統領選だとすれば、一度始まってしまった戦闘を途中で止めることの難しさを改めて慨嘆するしかない。

 一方のウクライナと米欧諸国では、指導層の焦りが強まっている。地上での戦闘で劣勢をなかなか挽回できず、対ウクライナ支援の継続・拡大での制約要因も増え続けている。

 それが短期での勝機を求めるべくロシアへの強硬策を拡大させ、これにロシアが反応して最後は核の使用にまで、という可能性の悪循環に嵌ってしまっている。

 まずは最近の米欧各国内事情である。当該国とウクライナにとってどうにも好ましいものではない。

 ウクライナ最大の擁護者である米国大統領・J.バイデンは、残り4か月を切った大統領選で対立候補となるD.トランプと公開討論を行い、周知の通り、かねて懸念されていた老いの問題を曝け出してしまった。

 米主要メデイアは早々とリングにタオルを投げ入れる始末で、大統領選に向けて彼に代わる候補を立てるべきかで米民主党内は揉めている。

 その結果がどうであれ、トランプの快走と当選を許したなら、米国の対ロシア強硬路線とウクライナ支援策への安心感は揺らぎかねない。

 一方、欧州議会や英仏2大国での総選挙では、そのいずれでも対ロシア強硬策や対ウクライナ援助に消極的な「右派」が伸長する結果となった。

 英国の改革党の党首・N.ファラージは、「ロシア・ウクライナ紛争の種を蒔いたのは西側だ」と選挙前に断言して英国内で物議を醸した。

 その改革党は、選挙制度の性格から獲得議席数こそわずかだったが総投票数の14%を占め、労働党の34%や保守党の24%と比べても極端に見劣りするものではない。

 フランスでは、右派・RN(国民連合)が、第1回投票では2022年の大統領選時を大幅に上回る33%を得て、その時点で左派28%や中道20%を上回る第1党となっていた。

 注目を浴び過ぎて反動を喰った結果、2回目の投票では第3党へ後退したものの、議席数は88から143へと大幅に伸びている。

 英国の労働党新政権が対ロシア政策転換を意図したり、フランス議会が大統領・E.マクロンに取って代わって外交の主導権を握ったりするわけでもない。

 しかし、議席数に現れた民意の変化が経済や国家財政の問題に起因しているならば、対ウクライナ支援をこれまで同様に継続させていくことは、両政府にとって容易ではなくなるのかもしれない。

 総選挙が1年以上先のドイツでも、現政権への支持率低下に歯止めがかからない。そうなると、欧州主要国でのウクライナ支援策が選挙民の意思に根付いて築かれている、と言い切るには一層の無理が出てくるだろう。

 EUでは、その行政府に相当する委員会の委員長に現職のフォン・デア・ライエンの続投が見込まれ、EU議会での承認を見越して新閣僚に彼女の意向に沿った反ロシア派が集められている。