2月11日、ルーマニアのミミハイル・コガルニセアヌ空軍基地で、同国に派遣された米兵がNATO事務総長のイェンス・ストルテンベルグ氏の到着を待っていた(写真:AP/アフロ)

(山田敏弘・国際ジャーナリスト)

 ロシアがウクライナに侵攻する準備を本格的に進めている――。そんなニュースが世界を駆け巡ったのは、2021年11月のことだった。

 それまでも度々、ウクライナとロシアとは緊張状態になることがあった。直近でも昨年4月に、ウクライナ東部に住むロシア系の分離独立派がウクライナ軍と衝突する事態があり、ロシア軍が今回と同じようにウクライナ国境に「10万人以上の兵」(ロイター通信、2021年4月19日)を配備したと報じられている。ただこの時は、部隊の多くはその後に撤収した。

 今回は、こうした過去のケースと比べ、ロシアの武力侵攻がはるかに現実味を帯びており、かつてないほどウクライナ東部は緊張感に包まれている。

 そして今回の危機においては、「インフォメーション・ウォーフェア(information warfare)」、つまり情報工作合戦もこれまでにないほど激しくなっている。SNSなどを通じて各国の政府機関が“生”の反応を示すことが珍しくない時代になっているため、シビアな情報戦の駆け引きが、目に見える部分でも交わされるようになっているのだ。

侵攻の口実づくりに腐心するロシア

 情報工作のせめぎあいは、直接的にはロシアvsウクライナという構図で激しくなされているが、ロシアvsNATO諸国という構図でも牽制合戦が盛んに行われている。

 米国防総省のジョン・カービー広報官は1月14日にこんな発言をしている。

「ロシアの工作員集団がウクライナに入っており、ウクライナ侵攻の口実を作るために、自分たち、またはロシア語を話す人々が攻撃を受けたかのように見せる作戦計画の証拠を掴んでいる」

 ジェイク・サリバン米大統領補佐官(国家安全保障担当)も、ロシアの工作員がウクライナ国内に入り、ロシアがウクライナに侵攻するための「もっともらしい口実」をでっち上げようとしていると批判した。このように、米政府関係者は次から次へとこの「偽旗作戦」に対して警鐘を鳴らし、ロシアを牽制してきた。

 さらにイギリスでもリズ・トラス外相が1月22日に声明を発表、ロシアがウクライナ侵攻を検討する中で、ウクライナの政権をすげ替えるべく工作を行なっているとの警告を発している。