こうした工作に従事するのは、ロシアのスパイ機関であるSVR(ロシア対外情報庁)またはGRU(ロシア連邦軍参謀本部情報総局)であるが、実はロシアの場合、こうした国外で活動するスパイ組織は、お互いに一切、協力はしない。どちらかと言えば、成果を上げるために競い合っていると言ったほうがいい。
2022年2月に入ると、米国防総省や国務省は相次いで、ロシアがプロパガンダ動画を制作してウクライナ侵攻を正当化しようとしていると明らかにしているが、もちろんそこにもこうしたロシアの情報機関が関与している。
彼らが準備を進めていた動画は、爆破シーンや遺体、嘆き悲しむ人の様子、さらに欧米が提供したと見られる武器も映し出される予定だった。しかも、「嘆き悲しむ」役などもすでに手配済みで、被害者の役はロシア人またはウクライナ在住のロシア系住民を確保していたということまで、米CIAはつかんでいるという。
実はロシアは2008年のジョージア侵攻でも、2014年のクリミア侵攻でもこの手の情報工作を行っている。クリミア侵攻当時、実際にあったケースだが、ロシア情報関係者は自分たちが雇ったウクライナ人女性をロシアメディアに登場させ、ウクライナ側から子どもが虐待されるのを目撃した、と訴えさせた。もちろんクリミア半島に住む人々の、対ウクライナ感情を悪化させ、独立・ロシアへの併合をスムーズに進めるための“地ならし”が目的だった。
米情報機関などはロシアとの交渉が膠着状態にある今、ロシアがこうした工作に積極的に乗り出す可能性が高まっていると見ている。事前にそれを封じるため、情報機関からの情報をもとに米政府高官らの口を通じて、ロシアを牽制しているのである。
フェイクニュース拡散にも注力
もう一つ、ロシアの情報工作で忘れてはいけないのが、お得意のフェイクニュース拡散である。2016年の米大統領選で、SNSなどを駆使して共和党のドナルド・トランプ候補(当時)に有利になるようなフェイクニュースをばら撒いたことは有名だが、今回もその工作を繰り広げている。
アメリカやウクライナを貶めるフェイクニュースを、SNSや無料メッセージアプリ「Telegram」のチャンネル等に大量に投稿している。例えば、米軍がウクライナ国境に戦車を配備しロシア部隊を攻撃しようとしていると写真付きで伝えるような書き込みだ。もちろんそのような事実は現時点ではない。