(武藤 正敏:元在韓国特命全権大使)
3月9日に行われる韓国の大統領選挙は、これからの5年間のリーダーを選ぶ選挙というよりは、文在寅政権の5年間に対する審判を下すという側面が強い。
というのも、与野党の大統領候補はいずれも国民の好感度が低い。それだけに有権者の意思表示は、文在寅氏の政策をどう評価するかによって大きく左右されそうだからだ。
そして韓国では、大統領選挙で政権交代を望む声が、左翼政権の存続を望む声を大きく上回る状況が長く続いている。文在寅政権と与党「共に民主党」にとって、厳しい審判が下されそうな雲行きになっている。
これまで外交問題は大統領選の焦点にはなってこなかった。ところがここにきて、大統領候補の間で、外交問題に関する論争がヒートアップしてきた。北朝鮮が今年に入って7回もミサイルを発射したが、「南北関係改善」を何よりも重視してきた文在寅政権が、北朝鮮の敵対的姿勢をむしろ助長してしまったことに対する批判が強まっている。さらに決定的だったのが、北京オリンピックにおいて中国が見せた韓国への侮辱的行動と、それに対して弱腰姿勢を続ける文在寅政権への態度だ。これに国民の怒りが沸騰している。そればかりか、「どのような対中スタンスをとるか」が大統領選の争点に浮上しそうな気配なのだ。そこにはもはや、対米、対日関係はない。
本稿では、大統領選挙の争点として、対中関係がクローズアップされてきたことに焦点を当て論じてみたい。
北京五輪で韓国人の「中国嫌い」がエスカレート
韓国人の中国嫌いは、最近とみに強くなっている。
韓国の東アジア研究院(EAI)によれば、中国に対する韓国人の敵対感は過去5年間で16.1%から40%に増加した。また、米シンクタンクの調査では「日本より中国が嫌い」ということが確認されている。