北京五輪の開会式で聖火の点火者を務めたウイグル族のジニゲル・イラムジャン選手(左)と漢族の趙嘉文選手(写真:新華社/アフロ)

(福島 香織:ジャーナリスト)

 私はもともと北京冬季五輪は専制国家のプロパガンダに過ぎないと思っており、外交的ボイコットを支持している。だが、日本選手はじめ世界各国のアスリートたちが4年の研鑽の成果を競い合う貴重な機会であり、楽しみにしているファンも多くいるであろうから、あまり大声で五輪開催自体をこき下ろすのは野暮だと思っていた。

 しかし、あの「イマジン」の音楽に合わせて「未来に向かって、一緒に」と一直線に並んで歩く一糸乱れぬ行進、聖火台点灯役にウイグル人女子選手をあえて抜擢した開幕式の演出、さらに高梨沙羅選手ら5人のノルディックスキー・ジャンプ団体競技での「スーツ規定違反」、スピードスケートやスノーボードでの異様な「判定」による有力選手の失格、女子テニスプレイヤー彭帥(ほうすい)の突然の引退発表の不可解・・・などを見て、やはり言わずにはおられない。この五輪は、絶対におかしい。この北京冬季五輪に抱く違和感の正体について紐解いていきたい。

ウイグル人迫害を隠す残酷な演出

 開会式は一見、洗練されて美しかった。総合プロデューサーは2008年の北京夏季五輪と同じく著名映画監督の張芸謀。開幕式カウントダウンは二十四節気の雨水から数えて立春でスタート、春が来た、という演出で、LEDライトでタンポポが芽生えて伸びて綿毛を散らし、黄河の流れが氷になって、溶けて空に蒸発していき氷の五輪マークが登場するなど、自然や時の移ろいを東洋的な概念で表現していた。パフォーマーは延べ3000人(2008年北京五輪では1万2000人)、プロのダンサー役者を雇わず、5歳から70歳までの一般人を動員した。

 花火演出は2008年北京五輪と同じく、ニューヨーク在住の国際的アーティスト、蔡国強の火薬を使わない花火アート。この花火演出もたった3回、トータル3分未満の短いもので、全体的には習近平の「倹約精神」が反映されている。また、本来中国が好きな赤や黄色ではなく、緑や白の色彩を多用し、エコでクリーンなイメージを前面に押し出した。おそらく東京夏季五輪の開幕式よりは洗練されていた、という印象をもった人も多く、さすが張芸謀と言いたいところだ。