南シナ海に展開中の米空母「カール・ビンソン」に着艦する最新鋭の早期警戒機「An E-2D」、1月24日、米海軍のサイトより

帝国主義を否定、それを振りかざす中国

 中華人民共和国(中国)の憲法前文には、「帝国主義」という言葉が4回も現れる。

 それをもって、中国は帝国主義の支配を受けたが、それを覆し、打ち勝って社会主義国家を建設したストーリーを描いている。

 そして、「帝国主義、覇権主義および植民地主義に反対することを堅持し、世界諸国人民との団結を強化し、抑圧された民族および発展途上国が民族の独立を勝ち取り、守り、民族経済を発展させる正義の闘争を支持して、世界平和を確保し、人類の進歩を促進するために努力する」(下線は筆者)と謳っている。

 しかし、帝国主義を否定したその中国が、19世紀以降の半植民地化の屈辱的な歴史を顧みず、いまや逆に帝国主義を振りかざし、覇権主義・植民地主義に突き進んでいる。

 何とした不条理・背信か、また何と愚かな行為であろうか――。

 国際政治学の泰斗、ハンス・J・モーゲンソーは、その古典的名著『国際政治(上)』(岩波文庫)の第5章「権力闘争-帝国主義」のなかで、帝国主義を「現状の打破、すなわち二国ないしそれ以上の国家間の力関係の逆転を目的とする政策である」と定義している。

 この定義の通り、いま中国は、超大国である米国との力関係の逆転を目指し、「軍事強国」を標榜するその力を背景に周辺国の領土・主権を侵害しつつ、米国を西太平洋から駆逐し、同国に代わって世界的覇権を獲得しようと試みている。

 経済的には、巨大経済圏構想「一帯一路」の下に「債務の罠」を仕かけ、南太平洋そして東南アジアからアフリカにかけて「抑圧された民族および発展途上国」の植民地化を画策している。

 さらに、統一戦線工作や孔子学院、そしてサイバー攻撃による認知領域作戦などを通じて、人の心を征服し制御する、いわゆる情報・文化思想的手段によって影響力を拡げるとともに、軍事的征服や経済的浸透のための下地を作ろうとしている。

 ジョー・バイデン米大統領は、これを政治体制・イデオロギーの視点から「民主主義と専制主義」の戦いと位置付けている。

 しかし、国際政治・対外政策の視点からすれば、「現状維持政策と帝国主義政策」の衝突と言うことができるであろう。

 帝国主義政策は、現状維持政策と対照をなすものであり、現状を打破する攻撃的で、かつとどまるところを知らない強力な企図に突き動かされており、それがもたらす既存の秩序に対する破壊、侵略、膨張を阻止するには、いわゆる「封じ込め政策」を基本とし、現状維持勢力の力を結集して対抗する以外に有効な方策はないのである。