日本人を軍事音痴にした戦後体制
戦後、わが国では、先の大戦の責任の大半を一方的に軍と軍人に負わせ、問答無用の姿勢で軍事、戦略そして地政学は「悪」として断罪し、その定着化が図られてきた。
結果として、これらの用語・概念は、長い間、政治家をはじめ多くの国民にとって、邪悪な領域として忌避され、政治、社会、学問的研究や教育などの場から排斥された。
例えば、日本における最難関大学とされる東京大学は、「一切の例外なく、軍事研究を禁止」している。
東京大学の研究に関する内規は、「東京大学は、第二次世界大戦およびそれ以前の不幸な歴史に鑑み、一切の例外なく、軍事研究を禁止する」と定めている。
この内規は、平成23(2011)年3月に「科学研究ガイドライン」として情報理工学系研究科(ロボット研究室)が明文化したものである。
軍事研究の禁止を明文化したのは同科だけであるが、東大広報課は「他の学部でも共通の理解だ」と説明している。
このため、東大のロボット研究者たちは、米国国防省の国防高等研究計画局(DARPA)が主宰する人型ロボット(例えば、放射能漏れ事故を起こした原子炉建屋で作業するロボットへの応用)の開発に関するコンテストへ参加するため、同ガイドラインに抵触することを避ける必要から、東大を退職せざるを得なかった。
戦前、東京帝国大学(現東京大学)には「(工学部)造兵学科」が存在したが、戦後廃止され、行き場がなくなった当時の学術資料は、現在ファナック(FANUC)社の蔵書庫で保管されているようだ。
また、1949年に国(内閣府)の特別機関として創設された日本学術会議は、1950年に「戦争を目的とする科学の研究は絶対にこれを行わない」旨の声明を、また1967年には同じ文言を含む「軍事目的のための科学研究を行わない声明」をそれぞれ発表している。
その大本である「戦争の放棄及び陸海空軍の戦力の不保持並びに交戦権の否認」を規定した「国防なき憲法」の下では、政治家も、学者・研究者も、まして一般国民も、軍事音痴に陥るのは仕方のないことだ。
そこで、米陸軍の『OFFENSE AND DEFENSE(攻撃と防御)』(Army Doctrine Publication No. 3-90, Headquarters Department of the Army Washington, DC, 31 July 2019、以下ADP3-90)を題材に、専守防衛を防御と対照しつつ、敵基地攻撃を含めた基本的な作戦原則を確認してみたい。