南シナ海に展開中の米ミサイル巡洋艦で任務に就く女性航海士(10月8日、米海軍のサイトより)

風雲急を告げる台湾情勢

 孫文らが中心となって清朝を倒し、中華民国を樹立した「辛亥(しんがい)革命」から2021年10月で、110年を迎えた。

 中国の習近平国家主席は、辛亥革命110年記念大会で次のように演説した。

「国家の平和的な統一は、台湾の同胞を含めた国民全体の利益に最も合致する」

 そして、「台湾の独立は、祖国統一の最大の障害で、深刻で隠れた危険だ」と警告し、「中国の完全統一はきっと実現されるだろうし、実現できる」と語った。

 一方、台湾の蔡英文総統は、中華民国(台湾)建国記念日「双十国慶節」の式典で演台に立ち、次のように語った。

「台湾の人々が(中国の)圧力に屈するとの幻想を絶対に抱いてはならない」(括弧は筆者)

「これは、中国の示す道が、台湾の主権や台湾市民2300万人の自由で民主的な生活につながらないためだ」

「中国がわれわれに示した道を歩むことを誰からも強制されないよう、われわれは引き続き国防を強化し、自衛の決意を表明していく」

 中国で秦の始皇帝以来続いた皇帝による専制政治を終焉に導いた、辛亥革命110周年を迎えた2021年は、中台双方の基本的立場の違いを背景に、激しい非難の応酬と抜き差しならない対立を一段と鮮明にする年となった。

 米インド太平洋軍のフィリップ・デービッドソン司令官は、2021年3月9日の米上院軍事委員会の公聴会において、今後6年以内に中国が台湾を侵攻する可能性があると証言した。

 さらに、次期同司令官に指名されたジョン・アキリーノ太平洋艦隊司令官は3月23日、上院軍事委員会の自身の承認に関する公聴会で、台湾有事の時期について「大方の予想よりずっと近い」と警告したことは、いずれも記憶に新しい。

 中国は、10月1日から5日にかけて、核搭載可能な爆撃機を含む150機の軍用機を台湾の防空識別圏(ADIZ)に侵入させた。

 その極めて異常な行動は、台湾はもとより、日米など、関係国・周辺国の緊張を一挙に高めた。

 これを受けて、台湾の邱国正国防部長(国防大臣に相当)は10月6日、議会での会合で、台湾海峡間の軍事的緊張はこれまでの40年間余で「最も深刻」だと説明し、中国の台湾海峡をめぐる軍事介入および封鎖能力は2025年までに成熟するとの報告書を提出した。

 日本の令和3(2021)年版『防衛白書』は、次のように記述している。

「中国が圧倒的な兵力を有しているものの、台湾本島への着上陸侵攻能力は現時点では限定的である。しかし、近年、中国は大型揚陸艦の建造など着上陸侵攻能力を着実に向上させている」

「・・・中台の軍事バランスは全体として中国側に有利な方向に変化し、その差は年々拡大する傾向が見られている」

 中国軍の侵攻可能時期について明示しなかったものの、脅威の高まりに対する警鐘を鳴らしている。