韓国の文在寅大統領(写真:AP/アフロ)

(武藤 正敏:元在韓国特命全権大使)

 韓国の大統領選挙が、3月9日に行われる。この選挙は、新大統領を選ぶ選挙であると同時に、文在寅(ムン・ジェイン)大統領の5年間の政権運営に対して国民が審判を下す機会ととらえることもできる。

 そしてその審判は、どうやらかなり厳しいものになりそうな状況だ。

自己評価と客観情勢に大きな落差

 文在寅大統領は昨年12月20日、青瓦台で開いた「2022年経済政策方向」報告会に出席し、主要関係者が出席する中で、5年間の政権の経済運営について自画自賛した。

〇厳しい時期、多くの危機と挑戦を乗り越えてきた韓国経済は期待を超える驚くべき底力を見せている。

〇包容と革新により危機の中でさらに強い経済に生まれ変わっており、追撃型経済から先導型経済に進んでいる。

〇最も肯定的成果は、危機の中で所得の両極化を減らし、分配を改善した点である。

〇(改善の背景として)市場所得においてはそれほど分配が改善したわけではなく、最低賃金の引き上げや各種の福祉政策の成果だ。

 しかし、韓国経済の現実は、文在寅氏の自画自賛とは程遠いものである。

〇無理な最低賃金の引き上げによって耐え切れなくなった中小企業者による労働者の解雇が進み、所得分配はむしろ悪化している。

〇労働組合寄りの政策に韓国企業の経済活動はますます困難になり、中小の製造業の困難は増している。

〇文在寅政権の政治により若者の希望は奪われており、韓国における特殊出生率は0.84にまで低下、人口減による経済停滞が目前に迫っている。

〇文在寅政権はコロナ防疫の成果を強調するが、現実はこれに反して感染者が急増している。既に、営業自自粛に耐え切れなくなった自営業者は1日1000件が廃業している。

〇人気のない次期大統領候補によるバラマキ公約で韓国財政は危機的状況を迎えようとしている。

 これだけの悪材料が重なり、韓国経済は次期政権下で一層の低迷を免れないとの見方が広まっている。その基盤を作ったのが文在寅大統領であり、次期大統領はそれを受け継ぎ深化させようとしている。