原油価格の動向もウクライナ情勢に大きく影響及ぼす可能性

 さて、現在ギリギリのところまで高まったロシアとウクライナの緊張状態ですが、ロシアとしてはどこを「落としどころ」と考えているのでしょうか。

 現在のロシア側の最大の要求は「これ以上、NATOを拡大しないこと」ですが、現ににべもなくはねつけられているとおり、おそらくそれを西側諸国が受け入れてくれるとはプーチンも思っていないでしょう。

 ただ最低限のラインとして、「祖地」であるウクライナだけはNATOに加盟させたくない。「未来永劫」とまで約束されるかはわかりませんが、少なくともこの瞬間はウクライナのNATO加盟を認めるわけにはいかない。さらに、可能ならば2015年のミンスク議定書で約束した、ウクライナ東部のドンバス地域での高度な自治を履行させたい。もしその確約が取れれば、プーチンはウクライナを攻撃しない可能性があると思います。

 最後にもう一つ、このウクライナ危機に影響を及ぼしそうな世界的な動きを指摘しておきます。現在、原油価格が跳ね上がっていることです。

 これは産業が弱く、資源輸出に経済を依存しているロシアにとって、極めて重要な事象です。ロシアは原油生産で世界三位、天然ガスの生産で世界二位のエネルギー輸出大国です。油価やガス価がウクライナ危機を契機に跳ね上がるのは、ロシア経済にとって必ずしも悪いことではありません。ただ、破滅的状態は避けたいと考えるのが経済的には普通です。現在冬場で特にエネルギーが必要な欧州諸国は、「ロシアとの関係が悪化すればパイプラインで送られてきているオイルやガスを止められて大変なことになる」といった危機感をもっていますが、実はロシア側からすれば、石油やガスの供給がストップして売れない状態になると、それはそれとして国として食べていけない状態になってしまうのです。

 原油高は、いまやシェールオイルとシェールガスのお陰で世界最大の産油国・ガス産出国となったアメリカにとっても、国富全体として考えれば悪い話ではありません。ロシアと欧米の諸国の緊張が高まることはもちろん世界にとっては悪いことですが、それによって油価が跳ね上がるという事象はロシアとアメリカにとっては必ずしも悪いことばかりじゃないのです。ただ、アメリカは、車利用大国でもあり、ガソリン価格などの上昇が政権批判に直結しやすいという側面もあり、また、オイル・ガス業界は、環境を重視する現在の民主党政権とは必ずしも近くないという点も見過ごせません。そういう状態も考慮しながら、この緊張状態を維持するのか、あるいは解除するのかを判断する可能性も考えておく必要があります。

 また最近になって、突如、イラン核合意にアメリカが復帰するとの報道が飛び出してきました。トランプ政権はイランに極めて厳しかったので、バイデン政権になれば変わると言われていましたが、政権発足後1年以上経った今、ここに来て急に動きが表に出て、報道がなされるようになりました。

 このニュースが原油価格を引き下げるのに大いに貢献しました。もちろんこの動きも、ウクライナ情勢を巡る駆け引きの一つとしても捉えておくべきだと思います。

 好むと好まざるとに関わらず、現在のウクライナをめぐる緊迫した情勢を生み出し、世界をかき回し、混乱に向けて動かしているメインプレイヤーはプーチン大統領です。プーチンの特性、心理の動きを見ながら、油価も含めた国際状況に目をこらし、プーチンがいかに柔道家らしく「崩しの理」「柔よく剛を制す」を基に、隙を突いてくるかを把握しないと、西側の政治家は、状況を見誤ると思います。