ウクライナはロシアの「祖地」

 論点は大きく二つあります。一つは、大局的になぜこのタイミングでウクライナに突然関与するようになったのかという点です。

 現在ロシアは、いうなれば欧米にケンカを売っているわけですが、これは通常ならとても勝ち目のないケンカです。ロシアは国土こそ広いですが、軍事力や経済力の面で見れば、アメリカはもとより、NATO全体に比べて圧倒的に劣ります。通常であれば正面からぶつかってもとても勝てる相手ではありません。

 しかし少し引いて世界を眺めてみると、アメリカは現在、危機が取りざたされている台湾や南シナ海など、軍事・安保面を中心に、台頭する中国に対抗するのに手いっぱいです。実際、そちらに力を集中させるためにアフガニスタンからも撤兵し、手を引きました。いうなれば、アメリカが中国・太平洋地域に重心を移し、中東や欧州への注意がおろそかになっている状態なのです。アメリカの重心のバランスが大きく崩れている今こそ、柔道家・プーチンの目には「ウクライナをおさえる絶好のチャンス」に映っているのだと思います。

 話は少々横にそれますが、なぜロシアはこれほどリスクをとってまでウクライナにこだわるのか。かつて役人としてロシアを担当しているときに、日本通のロシア人から聞いて「なるほど」と思った解説がありました。

「ロシア」という国名は、そもそも「キエフ・ルーシ」(キエフ大公国)のルーシに由来する言葉なのです。つまりロシアにとってウクライナというのは自分たちにとっての「祖地」なのです。

 それを私に説明してくれたロシア人はこうも言っていました。

「現在の日本の首都は東京ですよね。だけど日本の『祖地』ということを考えると東京と考える人はほとんどいないのではないですか。はやり京都や奈良をイメージするでしょう。

 ロシア人にとってはウクライナやキエフというのは日本人にとっての京都・奈良のような存在なのです。ウクライナが兄弟国家なら問題ありませんが、NATO入りして西側諸国の一員になるなんていう事態はロシア人にとって想像できません。今は東京を首都として中心的に考える日本人だって、もしも京都や奈良が他の国の手に落ちそうな事態になれば、国民感情が許さないでしょう。

 もともとドイツ統一の時に、西側は『NATOの東方拡大はしない』と約束していた。それを破ってチェコやポーランドがNATOに加盟したことは、百歩譲って目をつぶるにしても、もしも祖地であるウクライナまでが西側に行ってしまうなんていう事態になったら絶対に黙ってみていられないでしょう」

 そういうロシアの国民感情がふつふつと煮えたぎっていた中で、今回、アメリカの重心が崩れた。すかさずプーチンは「チャンスが来た」と判断したのでしょう。