オリンピックの成否は微妙もワクチン政策は評価すべき

 その結果として、安倍政権ではなかなか前に進められなかった内政面での各種政策については法案が成立したり、次の政権に引き継げる準備が進んだりして、たった1年の菅義偉政権が一定の成果を挙げたことはそれなり以上の評価を下すべきだと思うのです。

 その中での一番の功績はワクチン政策でありましょう。安倍政権末期、本当にグダグダなコロナ環境でありながら、少なくとも高齢者にはほぼ希望者全員にワクチン接種が行き渡り、医療関係者や救急隊員の多大な協力を引き出しながら、この夏の感染者もあれだけ出しながら、死者は驚くほど少ない数字で収まったという点で、菅政権のワクチン政策は成功であったと言えます。そればかりか、予備的に調達していたアストラゼネカ製ワクチンを台湾に提供することも含めて、充分に日本のプレステージが確保できる方針を打ち立てることができたのも、菅政権の功績ではないかと思います。

 いわば、菅政権は日本人の命を救ったといっても過言ではありません。どんどん支持を失い、国民から「菅さんじゃ駄目だな」と言われながらも、日本人があまり死なずに済んだのは、「7月末までの高齢者全員接種」「1日100万回以上接種」という菅さんの指令が功を奏したからに他なりません。

 他方、政権の支持浮揚を狙った東京オリンピック・パラリンピックの開催強行がありました。京都大学の西浦博さん(感染症疫学)ら感染症専門家が総じて開催そのものに反対をする中、もう1年の延期という選択肢は本当になかったのか。総費用3兆円とも言われる開催費用に見合う効果はあったのか。開催期間中に国民民主党・玉木雄一郎さんら野党も求める臨時国会を開かず、コロナで縮退した経済を支える補正予算・財政出動をしなかったのは妥当だったのか──という反省点は残されたままです。

 東京オリンピックを開催すれば、国民は気分高揚して政権支持率は上がるだろうという見込みもあったかもしれませんが、仮に東京オリンピックが楽しかったからと言って、そこで「菅さん、楽しかったよ。ありがとう」と支持率が上がるなんてことはまるでなかったというのは残念なことです。

 オリンピック開催期間中、スポーツの祭典をやっているにもかかわらず、国民には緊急事態宣言で行動自粛を強いたことそのものが、菅政権に対する不信感を醸成してしまった面は否めません。