習近平夫妻と金正恩夫妻。右端が李雪主夫人(写真:新華社/アフロ)

 北朝鮮で起きた金正恩総書記の女性スキャンダル。お相手が北朝鮮のエリート芸術団「国務委員会協奏団」の歌手、キム・オクチュ氏と判明し、北朝鮮の若い女性は怒りに肩をふるわせているという話は以前の記事で述べた(「独裁者の女性スキャンダルに北朝鮮の若い女性が怒り心頭なワケ」)。その後、当局の捜査の結果、スキャンダルをリークした人間が判明した。キム・オクチュ氏の同僚歌手である。

 同じような事件は以前にもあった。2013年、金正恩総書記夫人の李雪主氏に関するスキャンダルを広めた同僚の女性歌手十数人は集団銃殺刑に処せられた。今回も、同じような殺戮劇が待ち受けているのだろうか。

(金 興光:NK知識人連帯代表、脱北者)

 2013年、北朝鮮で銀河水管弦楽団の歌手十数人が集団銃殺されるという悲劇があった。金正恩総書記の夫人、李雪主氏に関するスキャンダルを広めた罪で、うら若き女性らがむごたらしく処刑された。

 同じ悲劇が、また繰り返されそうな兆候がある。今回は今年7月に持ち上がった、金正恩総書記と国務委員会協奏団の歌手、キム・オクチュ氏との間の不倫スキャンダルがきっかけだ。それを広めたとされる女性歌手たちは今、恐怖の瀬戸際に立たされている。

 今回のスキャンダルについては、騒動が持ち上がって以来、当局が事態の収拾に躍起となっている。事実、党中央の検閲委員会と国家保衛省下の人民軍保衛省が合同捜査チームを立ち上げ、徹底的な捜査を行った。

 消息筋によると、捜査チームはこれまでに平壌市や北朝鮮全土を対象に、市民が送った携帯電話の写真やメッセージ内容を調査し、その拡散経路を徹底的に追跡した。

 その結果、噂の最初の出所を突き止めることに成功した。浮かび上がった容疑者はキム・オクチュ氏と同じ芸術団に所属する、複数の女性歌手だった。

スキャンダルの発端となった写真。金正恩総書記とキム・オクチュ氏の距離が近い(提供:金興光氏)

 逮捕された歌手たちは並みの歌手ではなく、キム・オクチュ氏と同じ国務委員会協奏団に所属するエリート歌手だ。

 キム・オクチュ氏と同じく平壌金星学院と平壌音楽大学を卒業し、ほぼ同じ時期に青峰芸術団、牡丹峰芸術団を経て、2020年1月からは玄松月団長が率いる国務委員会芸術団に所属、活動してきたという。さらに、彼女らは金正恩が呼ぶところの「1号公演」の固定メンバーだ。いわば、北朝鮮の住民には雲の上の存在ともいえる特別な歌手たちである。

 捜査が終結し、スキャンダルを広めた歌手が逮捕された後、当局はすぐに幹部や党員、一般人を対象に説明会を開いた。そこで党中央をおとしめる反党行為が摘発されたことを説明するとともに、今後スキャンダルに言及すれば、厳罰が下されると釘を刺した。