2019年秋に中国深圳市で行われた、帰国した留学生を対象にした合同就職会(FIND ASIA提供)

現在約530万人とされる世界の留学生総数のうち、中国人の留学生は約160万人を占める。これまで留学先として最も人気の高かったのが米国だが、中国人の留学指向に変化が現れている。(JBpress)

(加藤勇樹:香港企業Find Asia 企業コンサルタント)

 新型コロナウイルスによる世界全体での移動規制、貿易問題に始まった米中間の対立などで、世界各国は9月からもう一つ新しい変化に直面しています。それは、中国からの留学生たちです。

 日本では多くの学校の学期が4月開始ですが、世界では9月開始が大部分で、中国でも同様です。9月に入り世界各国で学生たちが新学期を迎える中で、160万人という世界最大の留学生グループである中国人留学生の指向がどのように変わりつつあるか、最新情報をお届けします。

中国人にとっての留学の意義

 外の世界で異文化を通じて学びを深めるという留学は、学生にとってはかけがえのない財産になります。また将来のキャリア形成や人生の選択肢をより豊かにします。

 中国人の学生にとっての海外留学は時代とともに変遷を遂げてきました。1980年代までは、海外留学をするには中国国内の厳しい選考が必須でした。この世代の学生は公費留学や政府による派遣留学という形でしか、留学の道がありませんでした。

 その国内選考が80年代半ばに撤廃され、その後、中国からの留学生が急増することになりました。

中国から出国した留学生数の推移。中国国家統計局および関連情報から作成

 中国人留学生が増加した大きな要因は、中国国内の経済発展により、留学費用などの経済的な障壁がなくなっていったことでしょう。

 その一方で、高学歴化が進む中国国内で、キャリア選択の可能性を広げるために海外大学での学位習得が求められるようになったことも、無視できません。

 特に近年人材の高度化が中国全土で提唱されるようになり、留学生をはじめとする高度人材への優遇政策が各地で始まりつつあります。海外留学後、中国に帰ってきた学生たちは、海外帰りを意味する「海亀族」という通称で呼ばれるほどの社会集団になりました。

帰国した留学生には戸籍取得などの優遇策が

 中国の高度人材優遇政策は、10億円単位の研究援助が支給される千人人材計画や孔雀計画など国家レベルの研究者や企業家を支援する政策、各地方の独自に行われる地方人材優遇政策まで幅広く実施され始めました。