北京市においては海外の大学で研究した海亀族に対して、北京市での戸籍取得における優遇、起業にあたっての10万人民元の資金援助などが実施されています。風変わりなところでは、自動車購入時の税金免除などもあります。広州市でも同様の広州市における戸籍取得の優遇があり、広州市で定住を決めた海亀族に対して6万人民元に上る移住手当ても支給されます。

 この優遇政策における注目点は、戸籍取得支援ということです。

 日本と中国の戸籍制度は大きく異なっています。中国では出生地に基づいて戸籍が制定されていて、受給可能な社会保障や公共サービスに大きな差が生じます。

 戸籍と異なる町に転居した場合、子供の通える学校、年金などの社会保険の算定額、不動産の購入許可など幅広い制限が課せられます。通常新しい町で戸籍を取得するには5~10年という期間が必要なのです。

 優秀な人材や海亀族の争奪合戦は2015年からいっそうの激化を見せており、北京、上海、広州、深圳という一線級の大都市から、成都や杭州という成長段階の都市にも次々に優遇政策が広がっています。

 学生たちにとっては海外留学という選択は、中国国内でのより良いキャリアや自由な都市生活につながるための重要なきっかけといえます。日本人学生にとっての留学よりも、重要な意味を持っているといえるではないでしょうか。

中国人留学生を受け入れる経済効果

 中国人留学生はその人数の多さから、世界の留学産業において重要なポジションに位置づけられています。世界の留学生総数は現在約530万人とされていますが、中国人の留学生は約160万人と最大の留学生グループになっています。

送り出す国別に見た2019年度の留学生数(UNESCO(http://data.uis.unesco.org/Index.aspx?queryid=172)、独立行政法人日本学生支援機構、中国外交部などの各種公式数字から著者作成)

 中国人留学生が存在感を増すとともに、世界各国の教育機関も中国からの留学生の誘致に注力するようになりました。これは中国からの優秀な学生を歓迎するという意味もあるでしょうが、経済的な狙いもあります。

 留学生が一人増えるということは、学費はもちろんのこと、学生個人のさまざまな消費活動、学生数に応じた政府から大学への補助金など、広い範囲での経済効果が発生します。

 2018年のアメリカ商務部の報告によると、アメリカ国内で学ぶ留学生による学費や生活費を含めた経済効果が、約447億USドルに及びました。中国人留学生数を基に計算した場合、経済効果は全体の3分の1である138億USドルを超えると推定されます(https://www.trade.gov/education-service-exportsより金額を算出)。

 留学という社会的な意義を、経済効果のみで判断するわけにはいきませんが、アメリカ国内にとっても、中国人留学生は重要な存在であるといえるでしょう。