がんについての講演をした後によく受ける質問のひとつは、「親戚にがんが多いのですが、がんは遺伝しますか?」というものだ。
この質問に対する答えは、「いまや日本人の二人に一人以上が生涯に一度はがんと診断される時代です。なので、確率的に偶然、親戚にがんが多いということは十分ありえます。若年で発症する、がんの発症を繰り返す、親族がみな同じ臓器のがんであるといったことがなければ、遺伝性を心配する必要はありません。また、教科書的には、がんの数%から10%くらいが遺伝性であるとされています。」といったところだ。
数%から10%くらいというのは、それほど高くない数字ではある。しかし、がんを発症して遺伝性とわかった患者さんには、それが100%の運命となる。
この本は、32歳で遺伝性の乳がんを発症した女性哲学者の思索の記録である。最初にことわっておくが、著者の考えに完全に同意するものではない。だが、哲学者らしい思考から到達された結論は傾聴に値する、いや、それ以上に、自分の考えをバージョンアップするために非常に役立つものだった。





