2018年3月、著者クリストファー・ワイリーは、かつて勤めていたケンブリッジ・アナリティカ(CA)の内部告発に踏み切った。
イギリスに本拠を置き、これまで世界各地で軍事心理戦や影響工作を引き受けてきたSCLグループ。ケンブリッジ・アナリティカは、SCLがアメリカに設立した子会社である。
2016年の大統領選挙でトランプ陣営の選挙対策本部長を務め、トランプ政権発足後、ホワイトハウス首席戦略官となったスティーブン・バノンは、同社の役員だった。
内部告発で明らかにされたのは、バノンとともに、自身がアメリカ大統領選挙の情報戦に関わったこと。
イギリスのEU離脱(ブレグジット)の可否を問う国民投票において、離脱賛成派がケンブリッジ・アナリティカの秘密子会社に金を払い、インターネット上で偽情報を拡散させたこと。
さらに在英ロシア大使館がトランプとブレグジット両陣営の間に築いた密接な関係を示す内部資料を提出したという。
アフリカで成功した部族対立、次はアメリカへ
SCLグループのデータサイエンティストチーム責任者である著者のところに、バノンが会いにやってきたのは、2013年のことだった。
その後、トランプの支援者であるマーサー父娘による出資が決まり、SCLグループは、アメリカ子会社としてケンブリッジ・アナリティカを立ち上げる。以降、著者はバノンとともに、プロジェクトを推進することになる。
CAは最初の実験場所としてアフリカと南国諸島を選んだ。まずは選挙戦に介入してオンライン上で偽情報やフェイクニュースを大量に流すとともに、住民を対象に大規模なプロファイリングを実行。ロシアの諜報部員と協力関係を築く一方でハッカー集団を雇い入れ、対立陣営の電子メールアカウントにも侵入した。(中略)
アフリカで部族対立をあおるのに成功すると、CAは次にアメリカに目を向けた。すると、「MAGA(アメリカを再び偉大に!)」や「壁を建設しろ!」といった叫び声がこだまするなど、どこからともなく『アメリカ版部族対立』が起き始めた。




