本書の著者で、進化生物学・分子生物学を専門とする東京大学定量生命科学研究所の小林武彦教授は、生物の「死」や「老い」について、一般向けに分かりやすく解説した著作で知られている。
「幸せ」の生物学的メカニズムを問い直す本書は、「死」を進化生物学の視点から再定義した『生物はなぜ死ぬのか』、「老い」の生物学的意味を探究した『なぜヒトだけが老いるのか』に続く、生物としての人間の存在意義を考えるシリーズの最新作である。
日本人は、なぜこれほどまでに物質的に豊かになり、寿命も大幅に伸びたにもかかわらず、「幸せ」を感じにくくなっているのだろうか。本書は、こうした素朴かつ根源的な問いに対する仮説を提示してくれる。
人間にとっての「幸せ」は何か
その根幹をなすのが、生物学的な視点からの「幸せ」の定義である。著者は、「生きていること」を生物の「最大の価値」とみなし、「幸せ」を「死からの距離が保てている状態」と定義する。それを大きく保つことができる生きもの、つまり「幸せ」な生きものが、環境変化に適応して生き残ってきたというのである。
人間にとっての身体的な「幸せ」、つまり「身体的な死からの距離を最大化すること」とは、きちんと食べる、しっかりと寝るといった健康的な生活を送れることである。言い換えれば、「より」美味しいもの、「より」良い眠りなど、「ベター」を志向することである。





