「死」は自身以外を生かす究極の利他行為

 しかし、ここまでいくと、もはや生きものの定義からは外れてしまう。不死のテクノロジーを開発する試みは楽しく、「幸せ」感に満ちているかもしれないが、実際にそうなったら本当に「幸せ」かどうかは分からない。

「死」はその個体自身にとって良いことではないが、死ぬことで選択が起こらなければ進化も起こらない。また、生きものは死ぬことで他の生きものの餌になったり、住み処を譲ったり、他者にとっては大きなプラスになる。そもそも、我々が生きていられるのは、過去から現在に至るまでに起こった、あるいは起こっている無数の「死」のおかげである。つまり、「死」は自身以外を生かす究極の利他行為なのである。

 このように、著者は「生」だけでなく「死」にも重要な意味を与えている。もし人間が死なないとすれば、「死」からの適切な距離を取ることができない、つまり「幸せ」にはなれないのである。

死の自覚が人生を輝かせる

 人間は、死ぬからこそ限りある人生を「幸せ」に送ろうと思える──これは、ラテン語でいう「メメント・モリ(Memento mori)」そのものである。

「メメント・モリ」は、「死を意識することで、今を真剣に、誠実に生きよ」という人生訓で、古代ローマやキリスト教文化圏で広まり、中世・近世には絵画や彫刻(ドクロ、砂時計、しおれた花など)で表現された。「今を生きよ」という人生訓である、「カルペ・ディエム(Carpe diem)」と対で用いられることが多い。

 ここであえて誤解を恐れずに言えば、死の自覚こそが我々の人生を輝かせるのである。「生」と「死」が織りなす「幸せ」の奥深さに驚くばかりである。

堀内 勉(ほりうち・つとむ)
1960年東京生まれ、東京育ち。東京大学、ハーバード大学大学院卒。資本主義の教養学公開講座を主催し、資本主義研究を進める傍ら、邦銀、外資系証券を経て大手不動産会社で経営に携わった経験を基に、現在、多摩大学大学院、青山大学大学院で教鞭をとる。趣味は料理、ワイン、漆器収集、読書で、軽井沢でワインバーも経営している。読書はノンフィクション中心で、ジャンルは経済から哲学・思想、歴史、科学、芸術、料理まで、知的興味をそそるものであれば何でも。
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各界の読書家が「いま読むべき1冊」を紹介!—『Hon Zuki !』始まります

(堀内 勉:多摩大学大学院教授 多摩大学サステナビリティ経営研究所所長)

 この度、読書好きの同志と共に、JBpress内に新書評ページ『Hon Zuki !』を立ち上げることになりました。

 この名前を見て、ムムッと思われた方もいるでしょうが、まさにお察しの通りです。2024年9月に廃止になった『HONZ』のレビュアーだった私が、色々な出版社から、「なんで止めちゃうんですか? もったいないですよ!」と散々言われ、「確かにそうだよな」と思ったのが構想のスタートです。

 私、個人的に「読書家の会」なる謎の会を主催していて、ただ定期的に読書家が集まって方向感もなくひたすら本の話をしています。参加資格は本好きな人という以外特になくて、私がこの人の話を聞いてみたいと思える人というかなり恣意的なのですが、本サイトの基本精神もそんな感じにしたいと思っています。

 簡単に言えば、本好きという自らの嗜好に引っ張られ、書かずにはいられないという内なる衝動を文章にしたサイトというイメージです。もっと難しく言えば、カントの定言命令のように、書評を書くことを何かの手段として使うのではなくて、書評を書くことそれ自体が目的であるような、熱量の高いサイトにしたいということです。

 それでまずオリジナルメンバーとしてお声がけしたのが、『HONZ』の名物レビュアーだった仲野徹先生と『LISTEN』の発掘で一躍本の世界の中心に躍り出た篠田真貴子さんです。まあ、本好きという共通点を持ったタイプの違う3人と思って頂ければ結構です。

 ジャンルとしては、基本はノンフィクションで、新刊かどうかは問いませんが、できるだけ時事問題の参考になるものというイメージです。レビュアーの方々には、とりあえず3カ月に一回くらいは書いて下さいねとお願いしています。

 少し軌道に乗ったら、リアルでの公開講演会とかYouTube動画配信とかもやっていきたいと思っています。出版社の方々とも積極的に連携していきたいと思っていますので、宜しくお願い致します。

(堀内 勉:多摩大学大学院教授 多摩大学サステナビリティ経営研究所所長)