米国経済の再構築という劇的なプロセスが始まった

 トランプ氏の運動はホワイトハウスだけでなく、シリコンバレー、ビリオネア、実業家イーロン・マスク氏と、第1次政権で首席戦略官を務めたスティーブン・バノン氏、MAGA(米国を再び偉大な国にする)経済ナショナリストとの間でより広範なイデオロギー的対立が存在する。

 バノン氏らナショナリスト一派はナバロ氏とともに関税は永久に維持すべきだと唱え、米国経済の再構築という劇的なプロセスが始まったと考えている。

 マスク、マーク・ザッカーバーグ両氏らシリコンバレー勢力はベッセント財務長官により現実的な路線を追求するよう促しているとランダー氏は解説する。

 トランプ氏に「米国経済を中国から切り離すのは悪いアイデアだ」と言っても理解しないが、ベッセント財務長官が「関税を145%に維持すれば米国債の利回りが急上昇し、米国で信用危機が発生する」と説明すれば理解する。だから必ずしも状況が悪くなるとは限らないという。

 来年の中間選挙で民主党が下院を奪還すれば軌道修正が加えられる可能性がある。米国には変化する強い力がある。

 しかしホワイトハウスが最高裁判決を無視する深刻な危機に陥った場合、すべてを元に戻すのが困難な状況に陥り、国がより永続的な変化を遂げる恐れがあるとランダー氏は懸念する。

【木村正人(きむら まさと)】
在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争 「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。