
(福島 香織:ジャーナリスト)
米中関税戦争で、今注目されているのが中国の航空市場の動向だ。北京当局は4月上旬、国内航空会社に米ボーイング社の機体や部品の調達の一時停止を通達しており、実際、厦門航空や中国国際航空がボーイング機の納品受領を次々拒否している。
一方で中国国際航空など主要航空会社3社が、昨年商業導入された中国国産旅客機C919を新たに100機発注。世界最大の航空機市場の中国において、ボーイング機の圧倒的シェアをいよいよ中国国産機が奪うチャンスだ、とばかりに、当局は強気の態度を示している。
だが、強気な態度とは裏腹に、習近平政権のこの判断を自殺行為と見る向きもある。
4月20日から24日までの間に、厦門航空が2機、中国国際航空が1機、ボーイング社の737MAXの受領を正式に拒否した。2025年3月31日までにボーイング社が中国の航空会社に納入した旅客機は18機。中国は4月12日から米国製品に125%の関税をかけていた。
今年だけで、ボーイング社は50機の旅客機を中国の航空会社に納品する予定だったが、ボーイング社はすでにこれら旅客機を中国以外の国に転売することを検討しているらしい。
ボーイング社CEOのオルトバーグはロイターなどに、「いらないという客に売り続けるつもりはない。返品された旅客機は他の買い手に転売するだけだ」とコメントしていた。トランプ大統領はこれを契約違反だとして、法的措置をとる可能性にも言及している。
米トランプ政権の高関税政策の本当の狙いは、中国を米国がかかわるグローバルサプライチェーンから締め出すことで、対中関税は245%にまで吊り上げられた。中国側はこれに対し報復関税を125%まで吊り上げ、真っ向から対抗している。
この関税戦争はおそらく資本戦争、金融戦争へと発展していくだろう。そして、米中それぞれが、自らを中心とするグローバルな産業チェーンや経済枠組みを再構築し、米中がブロック経済化、新たな冷戦構造へと対立が拡大していくという予測がある。
その米中産業チェーンのデカップリングのプロセスにおいて、航空機産業が最初の試金石となるとして注目を集めている。
実際、デカップリングは可能なのか、デカップリングによって米中がそれぞれ再構築した産業チェーンのいずれが、より栄えるのか。米中新冷戦でどちらが勝者になるのか。中国のボーイング排除のプロセスと結果は、その一つの判断材料なるだろう。
さきに私の見立てをいえば、中国の方が圧倒的に不利だと思う。