
(福島 香織:ジャーナリスト)
中国外務省が4月29日に公開した2分15秒の動画「不跪(屈しない)」が様々な反響を呼び起こしている。毛沢東の詩を引用した対米敵意発揚のこの動画の本当の狙いは何なのか。なぜ今さら毛沢東なのか。
この動画は、微博とXなどのソーシャルメディアの中国外交部アカウント経由で発表された。中国語字幕と英語字幕がついているので、国内外の華人だけでなく米国を含む英語圏の視聴者に発信された内容であることは間違いない。
不跪!
— 中国駐日本国大使館広報部 (@kouhoubuchn) April 29, 2025
Never Kneel Down! pic.twitter.com/yY60DcLGj6
「台風の目というのを聞いたことがあるだろうか?それは一時的には凪の状態になるのだが、実際は恐ろしい罠にはまっているようなもので、血なまぐさい嵐の前触れの静けさなのだ」というナレーションで始まる。
そして、米国トランプ政権が世界的な関税戦争を嵐にたとえ、他国に対する「90日間の猶予」という交渉ゲームで、中国を排除し、他国に対して中国との経済貿易協力を制限するよう強要していることは、まさしく「(中国を死に追いやる)必殺の罠にも似た台風の目」だと訴えている。
さらに「覇権に頭を下げて一瞬の安定を得たとしても、それは毒を飲んで喉の渇きをいやそうとするようなもので、さらに深い危機に陥るだけだ」と警告。米国が1990年代に日本製半導体のダンピングを理由に東芝などの日本企業を攻撃し、プラザ合意によって円高にさせたことで、日本経済が長期低迷したことや、フランスのコングロマリット・アルストムを強制的に解体させて、フランスからハイテク支柱企業を奪ったなどの歴史を例にあげて、「妥協や譲歩によって困難を打開することはむずかしく、卑屈に屈服すれば、ますます相手は圧力をかけてくることは歴史が証明している」と批判した。
また米国について、かつて毛沢東が使った「張り子の虎」という表現で批判し、「米国が世界の代表ではない」「米国の貿易規模は世界の5分の1に満たない」「世界が同じ船に乗るとして、米国は小さな孤独な舟にすぎない」「帝国主義者はみな傲慢だ」「少しでも道理を説けば、力ずくで迫ってくる」「米国はいうことがくるくるかわり、値を釣り上げてから売るような真似をすることは想像できるだろう」「だから中国は自らの選択とコミットメントを主張しつづけねばならないのだ」「中国はひざまずかない」「戦えば生き残り、妥協すれば死ぬことを知っているからだ」「中国が退かなければ、弱者の声が届く」「覇権主義のいじめが止まり、世界の正義が守られる」と主張。
そしてBGMがクライマックスに至ると、有名な毛沢東詩を交えて「東、西、南、北の風が吹こうとも、乱雲は悠々と横切るだろう」「暗黒の夜程、星は光輝くのだ」「誰かが前に出て松明を掲げ、霧を切り裂き、前方の道を照らさなければならない」「すべての国が背筋を伸ばしたとき、世界は覇権の高い壁を打ち破れるだろう」「中国のため、世界のため、我々は立ちあがり戦い続けねばならない」と高らかに宣言するのだった。
これは、あたかも米国に対する宣戦布告のようにも聞こえる。
はたして、中国はなぜこのタイミングでこのような挑発的な動画を発信したのだろうか。そもそも、なぜいまだに、毛沢東詩の引用なのか。
それはまるで朝鮮戦争(抗美援朝)のプロパガンダの再来のようにも感じられる。