追い詰められる内政
外交部が「不跪」発信をする直前、中国が医療機器や化工原料エタンなど130種余りの米国製品に対し、追加関税125%の適用除外リストを発表するなどしたので、実際は中国は対米譲歩に動いている。むしろ、その譲歩を弱気と人民に言われないように、言葉だけでも、対米攻撃的に強気の姿勢を見せているだけ、ともいえる。
だとしてもポイントが、中国政府として米国に少しでも弱気なそぶりを見せると、習近平政権の安定が維持できないくらい、中国内政が追い詰められているというところにあるのは変わらない。要は、中国側はもはや、米国と堂々と関税交渉ができるほどの余裕すらないのだ。
不思議なのは、中国に毛沢東語録が響く愛国的ナショナリストの中国人民がまだそんなにも存在するということだ。毛沢東の鎖国時代と違い、すでにそこそこ自由主義の果実のうまみも知り、豊かさを知っているはずの中国人が、いまさら毛沢東の持久戦論に共感したりするのか。中国人とはそれほど愚かなのか。それとも、愚かなふりをしなければならないほど、習近平政権の独裁と恐怖政治はひどいのか。
福島 香織(ふくしま・かおり):ジャーナリスト
大阪大学文学部卒業後産経新聞に入社。上海・復旦大学で語学留学を経て2001年に香港、2002~08年に北京で産経新聞特派員として取材活動に従事。2009年に産経新聞を退社後フリーに。おもに中国の政治経済社会をテーマに取材。主な著書に『なぜ中国は台湾を併合できないのか』(PHP研究所、2023)、『習近平「独裁新時代」崩壊のカウントダウン』(かや書房、2023)など。