中国エアラインの安全性は大丈夫か
ボーイング社も中国内35社のサプライヤーに頼っており、トランプ関税政策により部品コストは高騰する。さらに中国市場から締め出されることになれば、その損失は、ロシア・スプートニクが報じたロシアの専門家の見方を参考にすると、年間の損失は100億ドルから150億ドルという。
これは、2024年1月の737 MAXの窓部分パネル脱落事故などの品質問題や労働者ストライキなどによる深刻な業績不振や株安からの回復を阻害することになろう。
だが、従来の航空機産業のグローバルチェーンを米中が分かれて再構築するとなれば、ボーイングが中国サプライヤーの代わりを見つけるほうが、中国が米国製エンジン部品の代替品を見つけるよりも簡単であることは確かだろう。
こうした状況で、米中関税戦争が続き航空機グローバル産業チェーンの米中デカップリングが進んでいけば、一番気になるのは中国のエアラインの安定性と安全性だ。ボーイング機の部品不足による整備不良で、フライトの遅延、欠航が増えるのではないか。あるいは航空事故の懸念も大きくなるだろう。C919がもつ潜在的なリスクも、短期間で解消されるとは思えない。
ただ、習近平の政策の判断基準は、毛沢東時代と同じく、経済性や安全性、合理性よりも政治性を優先させるものだ。文革中、社会経済が混乱の極みで、人々が飢えていた時代でも、「中国人民がズボンをはけなくても核兵器を保有してみせる」といって核武装を急いだ。
同じように、国産旅客機を量産して航空機市場をボーイングから奪うという目標を達成するために、企業業績がひっ迫しようと、人民の命が犠牲になろうと、それを無視できるのが中国の強みともいえる。
おりしも日本はゴールデンウィークの最中だ。中国への旅行で飛行機の利用を計画している読者もいるかもしれないが、その安全性については少し留意されたほうがいいかもしれない。
福島 香織(ふくしま・かおり):ジャーナリスト
大阪大学文学部卒業後産経新聞に入社。上海・復旦大学で語学留学を経て2001年に香港、2002~08年に北京で産経新聞特派員として取材活動に従事。2009年に産経新聞を退社後フリーに。おもに中国の政治経済社会をテーマに取材。主な著書に『なぜ中国は台湾を併合できないのか』(PHP研究所、2023)、『習近平「独裁新時代」崩壊のカウントダウン』(かや書房、2023)など。