ルーツはサムスンだった

 ホームプラスは数奇な変遷をたどった企業だ。もとをたどれば、1997年に「サムスン」が設立した企業なのだ。

 1987年、サムスングループの創業者、李秉喆(イ・ビョンチョル)氏が死去した。

 サムスングループは3男の李健煕(イ・ゴンヒ)氏が継承し、李秉喆氏の他の子供たちにはグループ企業を分割して継承させた。

 流通事業「新世界」は末娘の李明煕(イ・ミョンヒ=1943年生)新世界グループ総括会長が継いだ。

 創業者の死去から10年、サムスングループは再び流通事業に進出した。
百貨店とともに、有力事業として米ウォルマートのようなディスカウントスーパーにも進出した。

 事業を担当したのはサムスン物産。チェーンの名称は「ホームプラス」とした。

 ところが意欲的な出店が始まった矢先に韓国を未曽有の通貨経済危機「IMF(国際通貨基金)危機」が襲った。

 サムスングループも資金繰り悪化に苦しみ、流通事業の拡大ができなくなった。

テスコからMBKに

 ホームプラス事業は、英テスコの資本を誘致し、「サムスンテスコ」として再出発した。

 サムスン51%、テスコ49%だったが、その後、サムスングループの中核事業から流通事業は外れ、2011年にテスコ100%の企業になった。

 ところが、テスコ本体の業績悪化で韓国法人を手放す必要が生じた。

 ここで手を挙げたのが、東アジア最大のPEF(プライベート・エクイティ・ファンド)である「MBKパートナーズ」だった。

 2015年に7兆2000億ウォン(1円=10ウォン)で買収し、今も保有し続けている。

 MBKは2005年設立の投資ファンドだ。今の運用資金規模は310億ドルに達している。

 創立者は、金秉奏(キム・ビョンジュ=1963年生)会長。韓国メディアの一部は韓国生まれで米国籍だと報じている。

 米ハーバード大の経営大学院でMBA(経営学修士)を取得後、ゴールドマンサックス、カーライルなどを経てMBKを設立した。

 義父は、ポスコの初代社長や首相を歴任した朴泰俊(パク・テジュン)氏だ。

 米フォーブス誌は、2024年に金秉奏会長の個人資産額を97億ドルだと報じている。

 MBKは、数多くの企業を買収して、上場、売却して大きな利益を上げてきたが、ホームプラスはうまくいかなかった。