スケールフリーが生態系の研究で重要な理由

 まず、花と昆虫の組み合わせは499通り見つかり、そのそれぞれの組み合わせについて観察された回数を数えた。次に、観察回数が多い組み合わせから順番に並べ、縦軸に観察回数、横軸に“何番目に多いか”という順位を取った。

 最も多い組み合わせはホソヒメヒラタアブとハルジオンで75回、ついでコマルハナバチとハコベホオズキの68回……と続く。

昆虫と花の組み合わせとその頻度をプロットした図(出典:岸茂樹・長瀬博彦 (2015) 東京大学弥生構内の膜翅目有剣類. つねきばち 26:14–30.)昆虫と花の組み合わせとその頻度をプロットした図(出典:岸茂樹・長瀬博彦 (2015) 東京大学弥生構内の膜翅目有剣類. つねきばち 26:14–30.)

※グラフではスケールフリー性(べき乗則)を見るために、縦軸も横軸も対数(自然対数、底はネイピア数e)という特別な目盛りを使った。

 すると、それぞれの組み合わせの点は左上から右下に向かって減少する直線に沿って並ぶ。

 グラフの横軸の0付近が1位(グラフ横軸はlog1=0)のホソヒメヒラタアブとハルジオンの組み合わせとなり、これが観察される頻度が75回(グラフ横軸はlog75=4.32)。このほかグラフの横軸の2付近は7位から8位(eの2乗=7.39)に当たり、この組み合わせはそれぞれヤブガラシとサビイロカタコハナバチ(32回、log32=3.47)、ヤブガラシとシロテンハナムグリ(30回、log30=3.40)に当たる。右に行くほど点が詰まっていく。

 1回しか観察されていない組み合わせが255通り。これは組み合わせ全体のうちの半分以上になっている。

 このグラフに沿ってべき乗則に従うかの分析をしたところ、規模を変えても同じ構造が現れることが推定された。この「規模を変えても(スケールを変えても)同じ構造」がスケールフリー分布の特徴であり、ネットワークや生態系の研究でよく注目される性質である。

 この構造がなぜ注目されるかというと、スケールを変えても同じ構造が現れるだろう、という予測が立つことである。つまり、規模を変えても行動的な昆虫と人気の花がごく少数現れるというわけだ。

 ただし、今回のデータでは直線というよりは山型のカーブを描いていて完全なスケールフリー(直線)からは外れているようにみえる。その原因は主に、それぞれの昆虫や花が現れる季節や場所が限られているためと考えられる。

 人間社会でも同じような関係性を思い浮かべることができそうだ。そうしたことも追って説明する。