一見無駄なつながりが絶滅を防ぐ
花と昆虫のネットワークは意外と頑丈で、送粉サービスはそうしたネットワーク構造に支えられていることがわかった。
従来、生物多様性は壊れやすい関係によって成り立っているといわれてきた。生物同士は進化の結果それぞれ特殊な関係をもっていて、ある生物が絶滅するとその周りの生物もどんどん絶滅してしまう、というようなイメージがある。
もちろん、そうした関係もないとはいわないが、こと花と昆虫のネットワークは多くのつながりで支えられていて簡単には共倒れは起きない構造になっている。このことを別の視点から見れば、一見無駄に思える多くのつながりを作っておくことで、ネットワークを頑丈にできると言えそうである。
また観察したネットワークでは花も昆虫もそれほど相手を厳密に選んでいなかった。花や昆虫のそれぞれが、自由に振る舞っているように見える。私は、このような関係だからこそ花と昆虫の多様性が維持されると考えている。私たちの人間関係を見ても「この人がいないと生きていけない」というような関係はいつか終わる。
「私は私、あなたはあなた」という関係のほうが長続きする。次回は花と昆虫の話を人間社会の視点も加えつつもう少し掘り下げてみようと思う。

【参考文献】
◎Kamo T*, Nikkeshi A, Inoue H, Yamamoto S, Sawamura N, Nakamura S & Kishi S (2022) Pollinators of Oriental persimmon in Japan. Applied Entomology and Zoology 57:237–248.
◎岸茂樹・長瀬博彦 (2015) 東京大学弥生構内の膜翅目有剣類. つねきばち 26:14–30.
◎岸茂樹 (2017) 愛知県豊田市の農作物に対する送粉昆虫の経済的価値. 矢作川研究 21:1-4.
◎前田太郎・岸茂樹(2024)虫がよろこぶ花図鑑.農山漁村文化協会.
岸茂樹(きし・しげき)
国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)上級研究員
愛知県出身。2000年東京大学農学部卒業後、京都大学大学院農学研究科で修士号、博士号取得修了。農研機構上級研究員。専門は昆虫生態学で、農業分野の研究に取り組む。著書に『繁殖干渉-理論と実態-(共著、名古屋大学出版会、2018)』『虫がよろこぶ花図鑑(共著、農文協、2025)』などがある。博士号を取得後、2009年から11年まで広告代理店での勤務も経験。趣味は写真。大学院在学中の2004年にテレビ番組「あいのり」にハカセとして出演。