図1.ボツワナの道ばたのウシの糞にきたタマオシコガネの一種(2003年、著者撮影、モノクロフィルムによる)。
(岸 茂樹:国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 上級研究員)
古代エジプト人は、フンコロガシが糞玉を転がす様子から、糞玉を太陽になぞらえ、フンコロガシが太陽の運行をつかさどる神だと考えた。
さらに、フンコロガシが糞玉を埋めた後、乾期を経て次の雨期になり土が湿って柔らかくなると、糞玉を埋めた場所から新しいフンコロガシの成虫が地上に出てきたことから、古代エジプト人はフンコロガシが復活をつかさどる神とも考えた。
そのため、フンコロガシはアイコンとして宝飾品に使われたり、護符として他の財宝とともに墓に埋葬されたりした。古代エジプト人はよく観察しているものだ。フンコロガシが糞玉を転がす姿は昔から愛されてきたのだろう。
なぜフンを転がす進化が起きたのか
フンコロガシが糞玉を転がすように進化した理由は、糞の争奪戦が激しいからと言われている。
糞は貴重なエサなので、糞を食べるコガネムシ(食糞性コガネムシ類、フン虫)が生息する場所では糞をめぐって競争が起きる。このとき、いち早く糞を玉にして遠くに運んでしまえばエサを確保できるというわけである。
糞玉は成虫のエサになるだけでなく、成虫が作り直して産卵し、子のエサにもなる。これは親から子への投資という側面を持っている。
日本国内には糞玉を転がすフン虫はほとんどいないので、約20年前、テレビ番組「あいのり」でアフリカのボツワナに行ったときに、糞玉を転がす多くのタマオシコガネやその仲間をみることができて感動した。
私はさまざまな昆虫の研究に取り組んできたが、ちょうど当時、日本に生息する糞玉を転がさないタイプのフン虫、特にエンマコガネというフン虫を研究していた。