フンコロガシが実践している子どもに対する最適投資

 エンマコガネの親は糞の下に穴を掘り、その先に糞を詰めて俵型の糞塊をつくる(図2、3)。糞塊1つに卵を1つ産み付けるので、生まれた子は成虫になるまでその糞塊のみをエサにして育つ。幼虫の成長は早く、1カ月ほどで成虫になって地上に出てくる。

図2.左:アクリル板で作った実験容器。糞塊ができたところに黄色いテープが貼ってある。右:フン虫のペアが糞塊を作成する様子。糞塊1つにつき卵1個を産み付ける。図2.左:アクリル板で作った実験容器。糞塊ができたところに黄色いテープが貼ってある。右:フン虫のペアが糞塊を作成する様子。糞塊1つにつき卵1個を産み付ける。

 私は、エンマコガネの親が子のために用意する糞塊の大きさがどのように決まるのか知りたいと思った。

 糞塊を大きくすれば子の発育は良くなるが、子の数は増やせない。一方で、糞塊を小さくすれば子の数を増やすことができるが、子の発育は悪くなってしまう。

 従来の理論研究(Smith and Fretwell 1974)では、親が持つ資源の量に関係なく、子の置かれた環境に従って子1個体当たりの最適な投資量が決まるといわれていた(図3)。

図3.Smith and Fretwell (1974)が示した最適投資量の概念図。限界値の定理(Marginal Value Theorem: MVT)の派生形でもある。図3.Smith and Fretwell (1974)が示した最適投資量の概念図。限界値の定理(Marginal Value Theorem: MVT)の派生形でもある。

 図3に示すように、親から子にある投資(世話や給餌など)をしたとき、子1個体への投資を増やすほど、子の適応度(うまく生き残ったことを示す指標、人生でいう成功度のようなもの)は上昇していく。

 しかし、あるところから適応度の上昇ペースは落ちていくのでこのグラフはS字カーブになる。

 ここで親からみた最も効率のよい(投資に対する見返りの高い)投資は、図3の丸印を付けたところになる。つまり、適応度曲線のS字カーブに対して、グラフの原点から直線を延ばしたときに最も傾きが大きくなるところ、適応度曲線との接点における投資量が最も効率のよい投資量で、ここが子に対する最適投資量である。

 この最適投資量はS字カーブの形によって決まるが、S字カーブは子の環境によって決まり、親の資源量とは関係ない。ということは、親の資源量に関係なく子1個体への最適な投資量が決まるというわけである。