子に与えるエサの量を調節していたフン虫の親

 直感的には親が持つ資源量が多いほど、子1個体当たりの投資量も多くなりそうな気がする。そして、このように美しい理論通りにいくものだろうかというのが次に湧いた疑問だ。

 もしも置かれた環境によって子1個体の最適投資量が決まっているなら、そのような環境に関連する要素の一つである、エサ(糞)の質が変化すれば、フン虫の親が用意する糞塊の量は変わるだろうか。

 質の良い糞ならば少なくて済み、質の低い糞ならば多くなると予想できる。私はフン虫の親がそのような調節をしているのか、実験してみることにした。

 材料には、コブマルエンマコガネ(以下コブマル)という都会のイヌ糞にも簡単に見つかるコガネムシを用意した。

図4.コブマルエンマコガネのオス(左)とメス(右)(著者撮影)図4.コブマルエンマコガネのオス(左)とメス(右)(著者撮影)

 私の検討により、質の高い糞としてサル糞を、質の低い糞としてウシ糞を選んだ。サル糞は窒素と炭素のバランスがとれている一方、ウシ糞は消化が進んでおり炭素に著しく偏っているからである。

 実験には、この2種類の糞に加えて、サル糞とウシ糞を1:1で混ぜた中間の質の糞を用意した。これら3種類の糞をコブマルの成虫ペアにそれぞれ与えて、糞塊の大きさを調べた(図5)。

図5.コブマルのペアが作った糞塊の大きさ。エラーバーは標準誤差(Kishi and Nishida 2006より改変)。図5.コブマルのペアが作った糞塊の大きさ。エラーバーは標準誤差(Kishi and Nishida 2006より改変)。

 サル糞を使ったときには糞塊は小さく、ウシ糞を使ったときには糞塊は大きくなり、混合糞を使ったときにはその中間の大きさになった。予想通り、コブマルの親は糞の質に応じて子に与えるエサの量を調節していたのである。

 他のいくつかの実験結果を考え合わせると、コブマルの親成虫は自ら糞を食べながら糞塊を作り、その栄養状態に応じて糞塊を作る時間を変え、それによって糞塊の大きさを調節しているようだ。

 理論モデルの「S字カーブ」から導かれる最適な投資が、フン虫でも実現されていることになる。