魚はテレビを見て学習するのか?
高橋:他者がもたらす情報には、さまざまなものがあります。先ほど説明した実験の場合、ひょっとしたらモデル魚がいなくても餌場の近くに餌があると認識している可能性もあります。ほかにも、餌がなくてもモデル魚が餌場に近づく動きを単純に模倣しているとも考えられます。
他者の行動の結果を捉えて学習しているかどうかがわからないのです。
また、モデル魚ではなく観察魚同士の動きが学習に影響を及ぼしている可能性も否定できません。そこで、次の実験では単独での訓練に適したシマアジを用いました。
この実験では、観察魚に見せる隣の水槽の条件を「①泡が出てきたら(エアレーションがついたら)餌が出てくる(モデル魚はいない)」「②学習済みのモデル魚がエアレーションの泡に寄り付く(餌はない)」「③泡の近くでモデル魚が餌を食べる」の3パターンとしました。
すると、シマアジは①、②の条件では「エアレーションの泡=餌場」という学習ができないことが明らかになりました。③の条件のみ、エアレーションの泡に接近するようになったのです。シマアジは、他者の行動を捉えて情報を習得し、学習している可能性が高いことが示唆されました。
──「魚がテレビを見て学習するのか?」という研究もしているそうですね。
高橋:その実験は、マダイで行いました。網に追われたマダイが隠れ家に逃げ込む様子を実際に隣に水槽を置いて見せた場合と、同じ様子を映像で見せた場合で、学習魚の行動に違いが出るのか、比較実験を行いました。
結果は、違いはありませんでした。ただ、何も見せていないマダイと比較すると、水槽でのモデル魚の動きと映像を見せたマダイは、早く隠れ家に逃げられるということがわかりました。
マダイは、映像でも学習ができるのです。
──研究テーマや実験の着想はどのようにして得ているのですか。