マアジは他の魚の何を見て学習しているのか

高橋:他者の行動を見て学習する能力も、成長とともに変化していきます。この能力は「観察学習能力」と言われます。

 アジ科の魚と言うと、群れで生活をしているイメージがあるかもしれませんが、実際にはある程度の体サイズになるまではクラゲなどに付着して個々に海面を浮遊して暮らしています。

 マアジの場合は、体長が3センチを超えるくらいから社会的な行動、つまり群れで行動するようになります。この程度のサイズになると、マアジは統制のとれた動きをするようになります。

 生活環境に応じて必要な能力を備えているのであれば、群れで暮らす魚は「群れで暮らす」ために必要な能力を有しているはずです。例えば、頭の向きを揃える、同じスピードで泳ぐなどです。そこで、群れで暮らす魚には、他の魚から何らかの情報を習得する能力があるのではないかと考えました。

 そこに着目して、群れをつくる前の体長1.5センチ程度のマアジと、群れを形成するようになっている体長3.5センチ程度のマアジを用いて比較実験をしました。

 実験では、水槽を2つ準備し、隣合わせに設置しました。1つの水槽には観察魚として数匹のマアジを入れます。もう一方の水槽には、手本を見せるモデル魚として数匹のマアジを入れて、空気を送り込むエアレーションを設置し、そこを餌場としました。

 エアレーションのぶくぶくを止めた時に、そのそばでモデル魚が餌を食べている様子を観察魚に見せた後、観察魚の水槽のエアレーションを止めます。

 すると、水槽の中でばらばらに泳いでいる体長1.5センチの観察魚のマアジは、隣の水槽のデモンストレーションを見せても、餌場に寄り付く様子はありませんでした。他者からの学習をあまりしていないと考えられます。

 一方、体長3.5センチの観察魚のマアジは、水槽の中でも頭の向きが同じになっていて、互いの距離も近くなっています。彼らにデモンストレーションを見せると、きちんと餌場を覚えてエアレーションの空気が止まるとそこに寄ってくるようになりました。

 このことから、魚でも社会環境の変化に応じて、他者から情報を習得する能力が変化している可能性があることがわかりました。

 ここで、マアジは相手の何を見て学習をしているのかという点に興味が湧きました。