トランプは、ゼレンスキーの大統領任期は昨年に切れているのに、ゼレンスキーが大統領にとどまっているのは正統性がないとして、早期の大統領選挙を行うことを停戦の条件にした。これもロシアの主張を鵜呑みにしたものである。支持率が低いので敗北は確実で、ゼレンスキーは敗退し、親露派の大統領を誕生させるというプーチンの目論見に沿った発言である。

 19日には、トランプは、フロリダ州のイベントで演説し、ゼレンスキーを独裁者と酷評した。「ゼレンスキーが選挙の実施を拒否している。実際のウクライナでの世論調査では支持率は低い。全ての都市が破壊されているのに、どうして高い支持率を得られるのだろうか。選挙なき独裁者であるゼレンスキーはもっと迅速に動くべきだ。そうしなければ、国が残らないだろう。戦争は悪い方向に向かっている」と述べたのである。

 ゼレンスキーは、2019年に民主的な選挙で大統領に選ばれた。ロシア軍の侵攻で戒厳令が発令されたために、憲法に基づいて選挙が中断され、大統領の座にとどまっている。

 一方、ロシアでは、2024年3月に大統領選挙が行われ、88.48%という得票率でプーチンが圧勝している。

 プーチンは、大統領選を実施したロシアは民主的で、実施しなかったウクライナは独裁的だと主張して、トランプを洗脳したようである。トランプは、「ウクライナの人々は『選挙から随分時間がたった』と言うべきではないか。ロシアではなく、私やほかの多くの国からの意見だ」と述べている。

ウクライナの安全保障

 トランプがゼレンスキーを独裁者呼ばわりしたことについて、ドイツのショルツ首相、イギリスのスターマー首相らは、「ゼレンスキーは民主的に選ばれている」と批判した。

 19日には、マクロン仏大統領は、欧州各国やカナダの首脳と会談したが、トランプ発言に対する懸念の声ばかりであった。ベアボック独外相はヨーロッパの真ん中で戦争を始めたのはプーチンだけだ」と批判し、ヨーロッパの安全と平和が存亡の危機に立っていると危機感を示した。フランス政府の報道官も、「アメリカの論理を理解するのは困難だ」と述べた。

 ロシア寄りのトランプ発言に対して、ゼレンスキーは、19日の記者会見で、「トランプ大統領をアメリカ国民のリーダーとして非常に尊敬しているが、残念ながら偽情報の空間に生きている」と、ロシアに洗脳されていることを危惧した。

 ゼレンスキーの希望であるウクライナのNATO加盟は、トランプが仲介する停戦交渉では認められることはない。ロシアは、ウクライナの中立化を要求するものと思われるが、それもゼレンスキーは拒否するであろう。

 ゼレンスキーとしては、NATO加盟や中立化以外の選択肢を模索せざるをえないのである。