親睦の目的をはき違えると大問題に発展しかねない

 最後3点目は、日常の中で交わされる職場でのコミュニケーションこそ大切にすることです。

 今はワークライフバランスや副業を推進する職場が増えるなど、勤務時間外まで束縛することへの拒絶感が強くなってきています。仕事終わりに行う飲みニケーションは、オフサイトだからこそ胸襟を開いて親睦を深めることができる面もあるとはいえ、それがしにくい環境になってきています。

 上司と部下が一対一で定期的に話し合いの場を持つ1on1ミーティングを取り入れる職場も増えました。そのように日常業務の中にあえてコミュニケーションの場を設けることも一つの方法です。

 ですが、最も重要なのは業務指示や打ち合わせといった仕事上のコミュニケーションを通じて信頼関係を深めていくことに他なりません。「あれ、うまくやっといて」などと、何をどうすればよいのか分からないぞんざいな対応ではなく、丁寧に節度を持って接する姿勢は大切です。オフサイトでの親睦を気軽に図れる世の中とは言えなくなってきているからこそ、オンサイトでの日ごろの振る舞いの重要性がより増してきています。

 職場関係者と親睦を図る目的は、より良い仕事をするためにコミュニケーションを円滑にする関係性を職場内に構築することです。決して、個人同士が仲良く親密になることが目的ではありません。

 もちろん、仕事関係者と親睦を図ったことがきっかけとなって個人的に仲良くなるのも良いことだとは思いますが、それはあくまでプライベートな領域です。仕事上の目的とは切り離して考えなければなりません。

 特に仕事にまつわる力関係に絶対的な上下があるような場合は、危険ですらあります。その点、フジテレビの一件は大切な教訓です。仕事関係者との親睦の目的をはき違えるとセクハラやパワハラ、ひいては人権侵害や組織を揺るがす大問題に発展しかねないことを肝に銘じておく必要があるのではないでしょうか。

【川上 敬太郎(かわかみ・けいたろう)】
ワークスタイル研究家。男女の双子を含む、2男2女4児の父で兼業主夫。1973年三重県津市出身。愛知大学文学部卒業後、大手人材サービス企業の事業責任者を経て転職。業界専門誌『月刊人材ビジネス』営業推進部部長 兼 編集委員、広報・マーケティング・経営企画・人事部門等の役員・管理職、調査機関『しゅふJOB総合研究所』所長、厚生労働省委託事業検討会委員等を務める。雇用労働分野に20年以上携わり、仕事と家庭の両立を希望する主婦・主夫層を中心にのべ約5万人の声を調査・分析したレポートは300本を超える。NHK「あさイチ」、テレビ朝日「ビートたけしのTVタックル」等メディアへの出演、寄稿、コメント多数。現在は、『人材サービスの公益的発展を考える会』主宰、『ヒトラボ』編集長、しゅふJOB総研 研究顧問、すばる審査評価機構株式会社 非常勤監査役の他、執筆、講演、広報ブランディングアドバイザリー等の活動に従事。日本労務学会員。