四輪事業は二輪事業より不確実性が高い
具体的には、欧州グリーンディール政策、中国の新エネルギー車政策、アメリカのIRA(インフレ抑制法)、さらに第2次トランプ政権によるEV義務化撤回などだ。各国・地域の政治判断に、ホンダのみならず自動車産業全体が振り回されている状況にある。
電動化だけではなく自動運転についても同様で、国や地域による法規制の動向を常に探りながら、中長期の事業戦略を練る必要がある。そうした中で、米ゼネラル・モーターズ(GM)とその子会社クルーズと協業して実施予定だった国内でのロボットタクシー事業が事実上、白紙に戻った。
つまり、四輪の電動化や自動運転は二輪と比べて不確実性があまりにも高い。そのため、メーカー側はユーザーニーズを最優先にして主体的に事業戦略を立てることが難しい。
しかも、人工知能(AI)などを活用したクルマの「知能化」というトレンドにおいて、「クルマからモビリティへの転換」というイメージをあまりにも強く打ち出し過ぎているように感じる。

例えば、筆者はホンダからここ数カ月、同社が考える生成AIを活用した便利な機能やサービスについて、関連施設で様々な事例の説明を受けている。だが、「果たして、これはユーザーが本当に望んでいるのか?」と疑問を持つケースも少なくなかった。
確かに技術的には可能なのだろうが、いわゆる『モビリティなるもの』を実現しようと頭でっかちになりすぎて、ユーザーのニーズを見失ってはいないだろうか。
二輪事業においても、知能化の取り組みは進んできたが、今のところユーザーの意識と乖離している印象は特に受けない。
ホンダ創業者の本田宗一郎氏は、「技術は人のために」という言葉を残した。
二輪事業と四輪事業、さらに汎用機事業など多様な事業を持つホンダだからこそ、本当にユーザーに必要とされる「モビリティ」のあるべき姿を見出せるかが今、問われている。
桃田 健史(ももた・けんじ)
日米を拠点に世界各国で自動車産業の動向を取材するジャーナリスト。インディ500、NASCARなどのレースにレーサーとしても参戦。ビジネス誌や自動車雑誌での執筆のほか、テレビでレース中継番組の解説なども務める。著書に『エコカー世界大戦争の勝者は誰だ?』『グーグル、アップルが自動車産業を乗っとる日』など。
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