「走りながら転換を目指す」というジレンマ

 だが、こうした事業構造の転換には莫大な投資が必要になる。さらに、環境対応や交通事故の抑制といった社会課題に対応していくうえでも、足下では事業変革の原資を稼ぐために当面『より多くの台数を売ること』に頼らざるを得ない。ある意味、ジレンマを抱えている。

四輪と二輪のEVを活用したエネルギーマネージメント実証の様子。埼玉県内のホンダ関連施設にて(写真:筆者撮影)

 そうした『走りながら、大きな転換を探る』ことが、ホンダに限らず、自動車メーカー各社が直面している大きな課題だ。
 
 もう一つ、ホンダの二輪事業と四輪事業の大きな違いは、「乗る人の顔が見えやすいかどうか?」という点も見逃せない。具体的には、電動化や知能化(IT化)の分野においての話だ。

 電動化について、ホンダは2030年時点で電動二輪車の年間販売台数目標を400万台としている。目標達成のため、2030年までに30モデルを導入するとしているが、交換式バッテリータイプと固定式バッテリータイプなど、すでに13モデルの投入を具体的に示している状況だ。

 インドでは2028年に電動二輪車専用工場をベンガルールに新設する計画であることを今回、明らかにした。目標は、新車を購入してから3年間所有した場合にかかる総コスト=TCO(トータル・コスト・オブ・オーナーシップ)を、ガソリン車と同等レベルにすることだ。

 インド全土6000店舗のネットワークを活用し、バッテリーのリユースやリサイクルを含めて、資源を循環させるリソースサーキュレーションの実現を目指す。

 こうした電動二輪車の普及戦略においては、ホンダが主導権を握る形で国や地域と積極的に連携していこうという強い意思を感じる。そして、それが実現可能性が高いと筆者は考える。というのも、インドにおいてホンダは社会変化とそれに伴うユーザーのニーズを、販売店側がしっかりと把握できると思うからだ。

 ホンダの電動二輪戦略は「絵に描いた餅」ではなく、地に足がついたユーザーの顔がしっかり見える事業戦略と言えるだろう。
 
 ところが四輪の電動化については、ホンダが主導権を握れているかというと、必ずしもそうではない。各国・地域の政権の意向や規制の動向に大きく左右されるからだ。