利益至上主義という米ビッグテックの病

 囲碁で世界最強の棋士を破った英国のAI企業ディープマインドは自律的な活動を続けるという前提でグーグルに買収された。オープンAIもAIの倫理的発展を保証する非営利団体として設立されたが、マイクロソフトと資金提携したことで変質した。

 科学的好奇心、壮大なビジョン、ユートピア的願望に根ざしたAI技術は、理想主義と現実的な企業利益が衝突するシリコンバレーの典型的なパラドックスにぶつかっている。ディープマインドは営利主義にのみ込まれ、オープンAIも製品主導型の営利団体になった。

 利益至上主義という大企業病に冒され始めた米国のビッグテックはディープマインドやオープンAIのようなスタートアップをのみ込むことでイノベーションの推進力を維持しようと努めてきた。しかし、それが逆に米国のイノベーション力を削ぐというパラドックスに苛まれている。

 冒頭のウェイド元首席補佐官は「AIは今世紀における最も重要な地政学上の戦場であり、(中露のような)修正主義国家もそれを認識している。北京は軍民融合、保護主義、国家主導の資本主義を採り、人権や法の支配を犠牲にして急速な技術進歩を遂げている」と指摘する。

 AIと宇宙という二大戦場での勝敗が21世紀の世界を形作る。しかし米国が勝利するという保証は何一つない。

【木村正人(きむら まさと)】
在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争 「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。