平成28年4月にデビューした「めでたいでんしゃ」。その後「さち」と名づけられた列車はハートのモチーフもいっぱいで映えると話題になり、女性客も増えたという 撮影/山﨑 友也(以下同)
(山﨑 友也:鉄道写真家)
「加太の鯛」と「淡嶋神社の縁結び」をイメージ
南海電鉄と聞くと大阪の難波から関西国際空港を結ぶ特急「ラピート」を思い描く人が多いだろう。「ラピート」は独特で奇抜なスタイルから「鉄仮面」や「鉄人28号」などとも呼ばれ、子どもから大人まで幅広い層に人気がある。その南海電鉄で和歌山県を走るローカル線でも、インスタ映えするということで密かに人気となっている列車がいることをご存じだろうか。それが加太線を走っている「めでたいでんしゃ」である。
それではこの列車が誕生した経緯について述べてみよう。加太線とは紀ノ川駅から加太駅までを結ぶ、わずか9.6kmの盲腸線。電化はしているものの全線が単線で、現在はすべての列車が紀ノ川駅のひとつ先の、ターミナル駅でもある和歌山市駅まで乗り入れている。
明治45年に旧和歌山口駅から加太駅間に開業した加太軽便鉄道が前身で、加太電気鉄道を経て昭和17年に現在の南海電鉄である南海鉄道に買収された。
沿線には海水浴場や工場などがあったため、昭和40年頃の加太駅の利用者は1日平均約5100人と、大いに賑わいをみせていた。しかし少子高齢化や自家用車の普及などで利用者は減少。平成24年には開業100周年を迎えたものの、加太駅では1日約700人の利用者しかおらず、およそ半世紀前の1/7以下にまで落ち込んでいる。
そこで南海電鉄は地元の加太観光協会、磯の浦観光協会と共同で、加太線沿線の魅力を発信する「加太さかな線プロジェクト」を平成26年にスタート。その第1弾として地元高校生が制作した観光駅名看板の設置や、加太駅勤務者によるオリジナル前掛けの着用、地元の海産物を活かした新名物料理や名産品の販売などをおこなったほか、その後もさまざまなキャンペーンを実施していった。
そのような取り組みが徐々に認知されて効果が浸透しはじめていくなか、平成28年4月に運行を開始したのが「めでたい電車」というわけだ。
車両には「加太の鯛」と「淡嶋神社の縁結び」をイメージとした「おめでたい」「愛でたい」の意味が込められており、目や鱗も描かれたピンクと赤の外観を目にすると、誰もがめでたく感じ笑顔がこぼれてしまうほど。
鯛やさかなの装飾で彩られた、めでたくてかわいい「さち」の車内
ドア下の床では多くのさかながお出迎え
赤を基調とした温かみのある車内にはしかけがいっぱい。「加太の鯛」が車内を泳ぐイメージが表現され、さかな型の木製のつり革をはじめ、シートや窓には鯛が散りばめられ、ロールカーテンにはさかなを獲る網が描かれるなど、随所にかわいらしさがあふれている。それもそのはず、乗客は女性をターゲットとしたため、装飾には女性社員のアイデアや意見が積極的に採りいれられて造られたからだ。マスコミなどにも紹介されたおかげで評判は上々。その年度の定期外利用者は前年度より3万人も増加した。