絵の中に月の「大小」を忍ばせる

 カレンダーが必要なのに、自由に作ることはできない。さて、どうしたものか——。

 そんな状況で生まれたのが「大小」あるいは「絵暦」と呼ばれる小さな摺物。一見、ごく一般的な絵画に見えるが、その絵や背景の中に数字などが巧みに隠されている。

「読み解こう!北斎も描いた江戸のカレンダー」展示風景。葛飾北斎「猿の鹿島の事触(さるのかしまのことぶれ)」寛政12年(1800)すみだ北斎美術館蔵(前期)

「大小」の読み解き方を、ひとつ例を挙げて紹介したい。葛飾北斎「猿の鹿島の事触(さるのかしまのことぶれ)」は、常陸・鹿島神宮の神官が正月に御神託と称して、その年の吉凶を江戸の町で触れ歩く「鹿島の事触」を題材にした作品。画面には2名の神官が描かれているが、その神官は「猿」の姿をしている。この暦が申年のものであると示す暗喩だ。

 続いて、神官に扮した猿が着ている着物に注目。着物の輪郭線に数字が隠されており、一方の猿の着物には「正、三、四、五、七、九、十一」の文字があり、手には「大」の文字が書かれた御幣を持っている。もう一方の猿の着物の輪郭線には「二、閏四、六、八、十、十二」の文字。つまりこの暦は、「1、3、4、5、7、9、11」が大の月、「2、閏4、6、8、10、12」が小の月であると示したものだ。

 こうしたユニークでウィットに富んだカレンダーは、江戸の人々の間で大流行。葛飾北斎を筆頭に名だたる絵師たちが、趣向を凝らした「大小」を制作している。すみだ北斎美術館で開幕した展覧会「読み解こう!北斎も描いた江戸のカレンダー」では、前期・後期合わせて約100点の「大小」を紹介。作品と向き合い、絵に隠された「月の大小」を探すことができる。