(ライター、構成作家:川岸 徹)
ヴェドゥータ(景観画)の巨匠カナレット。その全貌を紹介する日本で初めての展覧会「カナレットとヴェネツィアの輝き」がSOMPO美術館で開幕。スコットランド国立美術館など英国コレクションを中心に、油彩、素描、版画など約60点を紹介する。
18世紀に流行、グランド・ツアー
約120の島々が400以上もの橋で結ばれた水の都・ヴェネツィア。街中に運河が巡る独特な景観と、ゴシック、ルネサンス、バロック期の総覧ともいえる建築物群は、古くから旅人の心をとらえてきた。
18世紀、ヨーロッパの貴族や富豪の間で「グランド・ツアー」と呼ばれる旅行が流行。これは、現代の修学旅行的なもの。支配階級や貴族たちは自分の子弟を異国で経験を積ませる旅に送り出した。その目的地として高い人気を集めたのがヴェネツィアだ。アルプス以北の国々がグランド・ツアーを熱心に行ったが、特にヴェネツィアは英国貴族たちに好まれたという。
人気の土産「ヴェドゥータ」
グランド・ツアーでヴェネツィアを訪れた英国貴族の子弟たち。彼らは旅の土産に、こぞって「ヴェドゥータ」を買い求めた。
ヴェドゥータとは都市景観を緻密に描き上げた絵画。写真がない時代、旅行者にとってヴェドゥータは旅の思い出を残す便利な手段だった。彼らは自分のために、そして自分を旅に送り出してくれた家族へのプレゼントとしてお気に入りのヴェドゥータを購入。ヴェドゥータは絵画のジャンルとして確立され、多くの画家が制作に乗り出した。
その中で抜きんでた人気を誇ったのがカナレット(1697-1768年)。彼が描いたヴェドゥータは英国人に爆発的に売れ、そのためカナレット作品は本国イタリアよりもイギリスに多く残されている。現在、最も多くカナレット作品を所蔵しているのは英国王室だ。ではなぜ、カナレットはイギリスで絶大な支持を獲得できたのだろうか。