現在まで3500点を超え、質・量ともに日本の現代美術の最も重要な蓄積として知られている高橋龍太郎コレクション。1946年生まれのひとりのコレクターの目が捉えた現代日本の姿を、作家115組の初期作や代表作とともに辿る。

文=川岸 徹 撮影=JBpress autograph編集部

「日本現代美術私観:高橋龍太郎コレクション」展示風景 中央:西尾康之《Crash セイラ・マス》2005

コレクションはやめられない

 長年探してきたものを、ついに手に入れたときの幸福感。この快感を一度知ったら、もうやめられない。絵画、レコード・CD、楽器、古書、スニーカー、ビンテージワイン、時計、家具……。様々なものを偏愛し、家族や友人に白い目で見られながらも、入手と所有の快楽に溺れ続けている人もきっと少なくないはず。

 現代アートの分野で日本のトップに君臨するコレクターといえば、筆頭候補は精神科医の高橋龍太郎だ。大手ゼネコン・大林組の会長で安藤忠雄設計のプライベートミュージアムまで作ってしまった大林剛郎、海外のコレクターランキングで必ず上位に入るファーストリテイリング代表・柳井正などライバルは多いが、それでも高橋龍太郎コレクションは美術関係者や愛好家から「質量ともに最高峰」と位置づけられている。

 

ジャンルを問わずに審美眼を養う

「日本現代美術私観:高橋龍太郎コレクション」展示風景。会田誠《紐育空爆之図(にゅうようくくうばくのず)(戦争画RETURNS)》1996年

 髙橋は価値あるコレクションを形成する秘訣について、「目と運とお金にかかっている」と言う。

 まずは「目」について。高橋龍太郎コレクションを公開する展覧会は、これまで全国7美術館を巡回した「ネオテニー・ジャパン―高橋コレクション」(2008~2010年)をはじめ、20回以上開催されてきた。これは高橋龍太郎の審美眼を展覧会の監修者や学芸員が認めているという証にほかならない。

 一般の美術ファンにとっても、高橋龍太郎コレクションはその収蔵作家の名前を聞くだけでわくわくしてくる。草間彌生、村上隆、会田誠、奈良美智、山口晃、鴻池朋子、加藤泉、宮永愛子、名和晃平、千葉正也、Chim↑Pom。日本の現代アートシーンを代表する錚々たる作家が並び、しかもその代表作がコレクションに収められている。

「日本現代美術私観:高橋龍太郎コレクション」展示風景。山口晃《當世おばか合戦―おばか軍本陣圖》2001年

 髙橋は作品を購入する基準をこう話す。「私は多神論者で、いろいろな領域のアートが好き。どんなジャンルであっても、想像を超えた作品に出会えたときが最高にうれしい。そんな想定外の作品を所有するようにしています」。