少年漫画、少女漫画、青年漫画を横断してヒット作を生み出し続けている創作集団CLAMP。創作活動35年の軌跡をたどる展覧会「CLAMP展」が国立新美術館で開幕した。

文=川岸 徹 

「CLAMP展」国立新美術館 2024年 展示風景
©CLAMP・ShigatsuTsuitachi CO.,LTD.
©CLAMP・ShigatsuTsuitachi CO.,LTD./CLAMP展製作委員会

あなどれないマンガ展

 漫画家や漫画作品をテーマにした「マンガ展」が、美術展のひとつのジャンルとして定着し、その本数も年々増加している。会場となる美術館には、いまだに「子供向けの娯楽であるマンガの展覧会を、美術館でやるなどけしからん」といった批判の声がある程度届くという。だが、日常の娯楽の中にアート性を見出し、自分の頭の中にある「これがアートだ」という枠を広げていくのは、大切かつ楽しい作業だ。

 本題に入る前に、マンガ展の歴史を振り返りつつ、これまでの“神展覧会”をいくつか挙げてみたい。まずは1990年に東京国立近代美術館で開催された「手塚治虫展」。マンガ展の草分けといわれる展覧会で、原画を中心にした構成が評判を呼び、39日間の開催期間に12万人以上の来場者を集めた。だが、時代が早過ぎたのか、国立の美術館がマンガ展を開催することに対して批判の意見が相次いだという。

 

伝説の展覧会が続々と

「CLAMP展」国立新美術館 2024年 展示風景
©CLAMP・ShigatsuTsuitachi CO.,LTD.
©CLAMP・ShigatsuTsuitachi CO.,LTD./CLAMP展製作委員会

 2000年代に入ると過去の原画を並べるだけでなく、新作の発表など新しい見せ方によるマンガ展が増加していく。「井上雄彦 最後のマンガ展」(上野の森美術館など。2008~10年)は、作家自身が展示空間に合わせて100点以上の直筆画を描き下ろした。この瞬間、この場限りの「空間マンガ」。井上雄彦といえば、2004年に神奈川県の廃校になった高校を舞台に、教室の黒板23枚にチョークで描いた『SLAM DUNK』の続きも話題を集めた。

 2017年に森アーツセンターギャラリーで開幕した「THEドラえもん展」は、村上隆、奈良美智、梅佳代、しりあがり寿ら、日本を代表する現代美術作家が、自分なりの「ドラえもん」を表現。誰もが知る国民的キャラクターを共通の素材とすることで各作家の個性が際立ち、心からわくわくする展覧会だった。「世界中の人に見てほしい」と願っていたら、今もなお巡回展が続き、シンガポール、台北を経て、今年8月2日からは上海展が始まるそうだ。

 海外でも日本のマンガをテーマにした展覧会が相次いでおり、その決定版といえるのが2019年にイギリスの大英博物館で開催された大規模マンガ展「The Citi exhibition Manga」だ。約3カ月の会期中に約18万人の来場者を記録。これは大英博物館の企画展としては歴代最多来場者数なのだという。日本のマンガの全貌を各時代の代表作で包括的に見せる試み。作家や出版社が抱える“大人の事情と垣根”を越えた内容で、日本では実現できない展覧会だといわれた。

 こうしたマンガ展の歴史を、今なぜここで振り返ったのか。その理由は国立新美術館で開幕した「CLAMP展」がここに加わるだけのポテンシャルとクオリティをもった展覧会だと感じたからだ。