約800点の原画、見せ方が巧み
CLAMPはひとりのアーティスト名ではなく、いがらし寒月、大川七瀬、猫井、もこなの女性4名からなる創作集団。1989年「サウス」第3号(新書館)にて、作品『聖伝-RG VEDA-』で商業誌デビュー。その後、少女誌、少年誌、青年誌など多彩な媒体で活躍し、『東京BABYLON』『X-エックス-』『魔法騎士レイアース』『カードキャプターさくら』『ANGELIC LAYER』『ちょびっツ』『ツバサ-RESERVoir CHRoNiCLE-』『xxxHOLiC』『こばと。』『GATE 7』など、数多くのヒット作を生み出した。海外でも人気が高く、作品はアメリカ、フランス、中国、台湾、韓国をはじめ世界20か国以上で翻訳され、総売上部数は1億部を突破している。
35年におよぶ創作活動の軌跡をたどる本展では、デビュー作『聖伝-RG VEDA-』から最新作『カードキャプターさくら クリアカード編』まで全23作品を網羅し、約800点もの原画を展示。まず、この原画が素晴らしい。
会場の冒頭「COLOR」と題されたエリアにはカラー原画が展示されており、各作品独自の世界観を形成するために様々な画材が使い分けられていることに気づかされる。初期の作品は水彩カラーインクで描かれたものが多く、その後の『東京BABYLON』ではカラーのスクリーントーンが、『魔法騎士レイアース』ではコピックが多用されている。こうした新たなチャレンジにより、CLAMPは長年にわたってファンを楽しませ続けてきたのだ。
CLAMPの作品は、国立新美術館という会場とも相性がいいと感じた。天井の高さを十分に生かした展示構成。約800点の原画をぎゅっと詰め込むのではなく、白壁の余白をうまい具合に残している。魔法や冒険など描いたスケールの大きなCLAMP作品の世界が、さらに大きく、外へ外へと広がっていくようだ。
映像と言葉でCLAMPの奥深さを知る
「MAGIC」エリアでは巨大な壁面に3つのスクリーンを設置。『カードキャプターさくら』や『xxxHOLiC』などから数々のキャクターが登場し、鑑賞者をスクリーンの中へと引き込んでいく。今や映像展示は珍しいものではないが、本展の映像は不思議なほど没入感が高い。展覧会の資料に「CLAMP作品を読んだ時の魔法にかけられたような体験」とあるが、決して大袈裟な煽りではないと思う。
そして「PHRASE」エリア。ここはCLAMP作品に出てくる独創的なフレーズを集めた空間。壁にCLAMPの言葉が並べられており、これが思いのほか心に刺さる。展示室の一画にはおみくじ箱のようなケースが置かれ、1人1枚、箱の中からステッカーを引くことができる。ステッカーにはCLAMPの言葉。ちなみに記者が引いたは「貴方の『痛み』や『苦しみ』は貴方にしかわからないのに誰も貴方を笑っていい筈ありません」という『東京BABYLON』皇昴流の言葉だった。このステッカーは会場に設えられた壁に貼り付けて「体験展示」に参加するもよし、大切に持ち帰ってもいいとのこと。
約800点もの原画をはじめ、映像、言葉、体験……と、様々な要素が融合した大回顧展。会場の最後には、CLAMPが本展のために新たに描き下ろした『聖伝-RG VEDA-』の阿修羅と『カードキャプターさくら』のさくらの新作も展示されている。
完成度が高く、CLAMPファンにはたまらない内容だろう。そう思ってSNSを覗くと「全人類行ったほうがいい」「4時間あっても足りません」といった充実ぶりを讃える声が大多数。みんなで幸せな時間を共有できる素敵な展覧会。よくぞここまで作り上げたと、拍手を贈りたい。