特別展「はにわ」展示風景。《埴輪 踊る人々》埼玉県熊谷市 野原古墳出土 古墳時代・6世紀 東京国立博物館

(ライター、構成作家:川岸 徹)

 古墳時代の約350年間に作られた素焼きの造形物「埴輪(はにわ)」。埴輪として初めて国宝に指定された「挂甲(けいこう)の武人」をはじめ、埴輪の名品が一堂に会する特別展「はにわ」が東京国立博物館で開幕した。

50年ぶりの“埴輪オールスターズ”

 素朴で、ユルくて、可愛らしい。3世紀中頃から6世紀終わりまでの約350年間にわたって作られた埴輪は、今や日本史を代表する人気キャラになっている。文化財のキャラ化やアイドル化には批判的な声もあるが、歴史や美術を学ぶ入口になればいいし、“埴輪マーケット”が潤い発掘や研究、保存、修復にお金が回ればありがたい。埴輪のキャラ化はたいへん喜ばしいことだと思う。

 そんな昨今の埴輪ブームのなか、東京国立博物館にて「挂甲(けいこう)の武人」国宝指定50周年を記念した特別展「はにわ」が開幕した。国内外約50か所の所蔵・保管先から作品を集め、東博曰く「空前のスケール」で行われる展覧会。これほど大規模な埴輪展が開催されるのは、同じく東博で1973(昭和48)年に開かれた特別展観「はにわ」展以来。その翌年の1974(昭和49)年に「挂甲の武人」は埴輪として初めて国宝に指定され、同時に国宝指定された「高松塚古墳壁画」とともに日本に古代史ブームを巻き起こした。

時代によってモチーフが変わる

 では、埴輪の歴史を辿りながら、展覧会の見どころを紹介していきたい。埴輪とは「権力者の墳墓に並べられるために作られた素焼きのやきもの」。古墳時代でも前方後円墳が作られていた時期のもので、大きな古墳が姿を消す6世紀終わり頃には作られなくなってしまう。

特別展「はにわ」展示風景。重要文化財《円筒埴輪》奈良県桜井市 メスリ山古墳出土 古墳時代・4世紀 奈良県立橿原考古学研究所附属博物館

 埴輪の形は時代によって変わり、3世紀中頃、最初に登場したのが土管のような形をした「円筒埴輪」。古墳を囲むように設置され、外敵を防ぎ聖域を守るバリケードの役割を担ったと考えられている。展覧会に出品されている奈良県・メスリ山古墳から出土した《円筒埴輪》は4世紀の作。日本最大の円筒埴輪で、高さは2.42メートルもある。巨大なスケールに圧倒されるが、器壁の厚さが1.6~1.8センチしかないことにさらに驚く。4世紀にこれほどの技術力があったとは。

特別展「はにわ」展示風景

 4世紀には「家形埴輪」も作られ始めた。家の形をしているが、単なるミニチュアではない。王の魂が住まう依代の役割を担っていたと考えられ、墳墓の頂上に置かれることが多かった。大阪府・美園古墳出土の重要文化財《家形埴輪》は2階建ての造り。内部に寝台(ベッド)のような表現があり、邪悪なものが屋内に侵入しないよう外壁には盾の模様が刻まれている。

特別展「はにわ」展示風景

 5世紀から6世紀は、埴輪の“多様化の時代”。犬、馬、鳥、そして人間と、様々な形をした形象埴輪が作られるようになった。これらの埴輪は単に古墳に並べられるだけでなく、墓で眠る王の物語を伝える役目も果たしたという。動物と人を組み合わせて狩猟の場面を表したり、軍馬と武装した人を合わせて武勇を表現したり。残された人々は埴輪を見て、在りし日の王の姿を思い浮かべたのだろう。