2大スター「踊る人々」「挂甲の武人」

 人の形をした形象埴輪の中で、最も有名なのが《埴輪 踊る人々》だ。近年の埴輪ブームを象徴するアイコン。ネットを検索すれば、フィギュアやぬいぐるみ、キーホルダーなど、多彩な“踊る人々グッズ”が次々に現れる。この《埴輪 踊る人々》、古くからその名が示す通り、王のマツリゴトに際して踊る人々を表した造形だと考えられてきた。ただ近年は、片手を挙げて手綱を引く馬引き人だとする説も。腰にはロープのような物がぶら下がっているが、これは手綱の予備だという。とはいえ、「踊る人々説」も根強く、結論には至っていない。

特別展「はにわ」展示風景。左・国宝《埴輪 挂甲の武人》群馬県太田市飯塚町出土 古墳時代・6世紀 東京国立博物館 右・《挂甲の武人》群馬県伊勢崎市安堀町出土 古墳時代・6世紀 千葉・国立歴史民俗博物館

 そして本展のハイライトである国宝《埴輪 挂甲の武人》。挂甲とは古代日本で用いられた鎧で、この武人が着用しているのは2×5センチ程度の金属板を1000枚ほど組紐で結んだ「小札甲」と呼ばれるタイプ。この挂甲で上半身を覆い、頭には衝角付冑、頬には頬当、顎には錣、肩には肩甲、腕には籠手。そして左手に弓、右手に刀を携えている。まさに完全武装、戦闘意欲満々。勇壮で気高い立ち姿に、なにがあってもわが国を守るという決意が表れているようだ。

 しかも、1体だけではない。国宝《埴輪 挂甲の武人》には同一工房で製作されたと考えられる4体の兄弟のようなよく似た埴輪があり、現在は国内外の博物館・美術館に別々に所蔵されている。群馬の相川考古館、千葉の国立歴史民俗博物館、奈良の天理大学附属天理参考館、そしてアメリカ・シアトルのシアトル美術館。本展では国宝《埴輪 挂甲の武人》とこの4兄弟が東博に集まり、計5体が史上初めて同時に公開される。

 挂甲の武人5体が並ぶ様子はまさに壮観。姿かたちがよく似ているうえ、サイズもほぼ同一。ただよくよく見比べると違いもある。例えば、東博の武人は靫(ゆぎ)といわれる矢入れ具を背負っているが、シアトルの武人はそれよりも新しい胡籙(ころく)という腰に付けるタイプの矢入れ具を携帯している。それぞれの埴輪はガラスケースに収められ、ぐるりと一周、美しいプロポーションと造形美を堪能することが可能。時間の許す限り、じっくりと鑑賞したい。

埴輪ブーム、拡大の予感

特別展「はにわ」展示風景。右《埴輪 乳飲み児を抱く女子》茨城県ひたちなか市 大平古墳群出土 古墳時代・6世紀 茨城・ひたちなか市教育委員会 左《埴輪 子を背負う女子》栃木県真岡市 鶏塚古墳出土 古墳時代・6世紀 東京国立博物館

「踊る人々」「挂甲の武人」のほかにも、気になる埴輪がいっぱい。その表現力の豊かさに、「古墳時代の埴輪作家は才能とセンスがすごい」と驚かされるばかりだ。幼子に母乳を与える《埴輪 乳飲み児を抱く女子》の慈愛に満ちた表情、農作業に勤しむ《埴輪 鍬を担ぐ男子》の満面の笑顔。国宝《埴輪 あぐらの男子》は凛々しい顔つきと気品あるポージングに、この人物が王であると推察できる。作品に付けられたキャプションを読むとその通りだった。

 見れば見るほど、おもしろい。本展を機に、令和の埴輪ブームはさらに拡大することになるだろう。

 

挂甲の武人 国宝指定50周年記念 特別展「はにわ」
会期:開催中~2024年12月8日(日)
会場:東京国立博物館 平成館
開館時間:9:30~17:00(毎週金・土、11月3日は〜20:00)※入場は閉館の30分前まで
休館日:月曜日(ただし11月4日は開館、11月5日は本展のみ開館)
お問い合わせ:050-5541-8600(ハローダイヤル)

https://haniwa820.exhibit.jp/