米国が開発した核爆弾「B-61」が搭載可能になったステルス戦闘機「F-35A」。写真は2021年9月21日ネバダ州の空軍基地で、米空軍のサイトより

 米国の核を含む戦力で日本を守る「拡大抑止に関するガイドライン」を日米両政府間で初めて策定した――。

 外務省は2024年12月27日、拡大抑止に関するガイドラインについてのプレスリリースをHP(ホームページ)に掲載した。

 主に拡大抑止協議を通じて蓄積された議論に基づき、日米両政府は、拡大抑止に関するガイドラインを作成した。概要は以下のとおりである。

①日米同盟は、一層厳しさを増す戦略的及び核の脅威に係る環境に直面している。日本政府及び米国政府は、地域の安定を促進し、紛争の生起を抑止するため、拡大抑止(注1)を強化することにコミットしている。

②主に拡大抑止協議を通じて蓄積された議論に基づき、日米両政府は、拡大抑止に関するガイドラインを作成した。

 同文書は、拡大抑止に関連する既存の日米同盟における協議及びコミュニケーションに係る手続を強化するものである。

 同文書はまた、抑止を最大化するための戦略的メッセージングを取り扱うとともに、日本の防衛力によって増進される米国の拡大抑止のための取組を強化するものである。

③日米同盟は、拡大抑止が強固かつ信頼できるものであることを確保する最善の方法を探求し続ける。

(注1)拡大抑止とは、自国だけでなく同盟国が核・通常攻撃を受けた際に報復する意図を示し、同盟国への攻撃を他国に思いとどまらせることである。「拡大抑止(extended deterrence)」は2つの抑止からなる。一つは「拡大核抑止(extended nuclear deterrence)」で、もう一つは「拡大通常抑止(extended conventional deterrence)」である。「拡大核抑止」は、一般に「核の傘」ともいわれる。

 さて今回、策定された文書には軍事機密が含まれているためか、上記の外務省のプレスリリースでは具体的な内容は一切公表されていない。

 そのため、どのようなことが協議され、何が決まったのかが全く不明である。

 現在、日本はルールに基づいた既存の地域・国際秩序に挑戦しようとするロシア、中国、北朝鮮という3つの核武装国に囲まれており、世界で最も厳しい安全保障環境に置かれているといっても過言ではない。

 こうした深刻かつ複雑な核の脅威に直面する中で、国民の安全を確保するためには、米国の「核の傘」が不可欠であることは言うまでもない。

 従って、今回策定された「拡大抑止に関するガイドライン」では、核抑止に関する情報の共有や米国の核兵器使用計画に関する日本の関与などに関する手順等が協議・決定されたものと推測される。

 いずれにしても、外務省のプレスリリースでは具体的な内容は一切公表されていないので、暗中模索の状態である。

 そこで、本稿では拡大抑止協議制度として長い歴史を持つNATO(北大西洋条約機構)の核計画グループ(NPG)と日本より一歩先を進む米韓の核協議グループ(NCG)の概要を紹介し、日米拡大抑止協議でどのようなことが議論されているかを探ってみたい。

 以下、初めに日本および韓国の拡大抑止協議の経緯について述べ、次に、NATO の拡大抑止協議制度について述べる。

 最後に、米韓の核協議グループ(NCG:Nuclear Consultative Group)とNATOの核計画グループ(NPG:Nuclear Planning Group)の差異について述べる。

 付言するが、日米の拡大抑止協議の英語訳はEDD(Extended Deterrence Dialogue)であり、NATOのNPGや米韓のNCGのように核(Nuclear)という言葉が使用されていない。

 上記の外務省のプレスリリースもそうであるが、筆者は日本政府は米国の核兵器の運用等について協議していることを公にしたくないのではないかと勘繰ってしまう。

 しかし、それは逆効果と言えないだろうか。米国の核兵器の運用について日米で協議していることをアピールした方が拡大核抑止力は確実に向上するであろう。